―満室時の丁寧な応対と接客の心得―
ホテル業界において、日々の電話対応は単なる予約受付の場ではなく、ホテルの「顔」としてお客様に信頼感を与える重要な機会です。特に、満室などお客様のご要望に直接応えることが難しい状況では、対応の仕方ひとつでホテル全体の印象が大きく左右されます。今回は、実際に「どうしてもそのホテルに泊まりたい」と強い希望を持つお客様からの電話があった場面をもとに、どのような応対が求められるのかを考察してみましょう。

電話応対の基本は、何よりも「第一声の印象」です。
あるホテルでは、スタッフが「ありがとうございます。△△ホテルの○○でございます」と明るく名乗り、お客様との会話が始まりました。お客様は「本日宿泊したい」と希望されましたが、あいにくその日は満室。ここでの対応が分かれ道となります。
スタッフはすぐに「大変申し訳ございません。本日は満室でして」と丁寧に説明しました。たとえ事実が不都合なものであっても、言葉遣いや声のトーンによって、お客様が受ける印象は和らぎます。

お客様はすぐに「満室なの!?困るんですけど」と不満を示されました。こうした場面は現場でも決して珍しくありません。旅行や出張の予定は人それぞれ事情があり、宿泊先が決まらなければ困るのは当然のことです。
ここで重要なのは、たとえ無理なお願いをされても決して感情的にならず、共感を示しつつ誠意を持って対応する姿勢です。スタッフは「大変申し訳ございません」と繰り返し、まずはお客様の不安や不満を受け止めることに徹しました。

さらに、スタッフは「以前当ホテルをご利用いただいたことはございますか」と尋ね、お名前を伺いました。お客様が常連であることを確認したうえで「昨年12月にもご利用いただき、ありがとうございます」と感謝を伝えたのです。
こうしたやり取りは、お客様に「自分は特別に覚えてもらえている」という安心感を与えます。結果的に強い要望を持つお客様であっても、対話を重ねる中で信頼関係を築くことができます。
満室である以上、「泊まれる」という即答はできません。しかし、そこで会話を終わらせず、代替案を提示することが大切です。
今回のケースでは、スタッフが次の二つの方法を提示しました。
お客様は「どうしてもこのホテルに泊まりたい」と繰り返し訴えましたが、それでもスタッフは冷静に代案を示し続けました。このように「できないこと」と「できること」を明確に伝えることが、プロフェッショナルな接客の基本です。
しかし実際には、お客様から「誰か追い出してくれません?」「泊まっている人の連絡先を教えて」など、到底応じられない要望も寄せられました。こうした場合、スタッフは毅然と「申し訳ございません」と繰り返し、個人情報やホテルの信用に関わることは一切対応できないと丁寧に説明しました。
ここで大切なのは、お客様を否定するのではなく「ホテルとしてできることとできないこと」を明確に区別し、揺るぎない姿勢を持つことです。強い要望に押されてしまうと、ホテル全体の信用を失う危険性があります。
状況が進むにつれ、スタッフは「まだチェックインされていないお客様がいるため、確認を取ってみる」という一歩踏み込んだ対応を提案しました。これはお客様の希望に寄り添いながら、現実的に可能な範囲で配慮を示す好例です。
ただしこの確認も即座に結果が出るとは限らず、スタッフは「1時間ほどお時間をいただきたい」と正直に伝えました。ここで安易に「すぐに解決します」と言わないことが、信頼関係を保つ上で重要です。
お客様は最後まで「どうにかして泊まりたい」と要望されましたが、スタッフは終始冷静に対応しました。そして「キャンセルが出ても出なくても1時間後に必ずご連絡いたします」と約束し、電話を締めくくりました。お客様にとって一番の不安は「放置されること」です。たとえ希望通りにならなくても、誠実に連絡を入れることが安心感につながります。
今回の電話応対から学べることを整理すると、次のようになります。

ホテルは単なる「宿泊の場所」ではなく、お客様にとって旅の安心を支える大切な拠点です。そのため、満室という避けられない状況であっても、スタッフの言葉ひとつで印象は大きく変わります。お客様が「また泊まりたい」と思えるかどうかは、まさにこうした電話応対の積み重ねにかかっているのです。
今回の事例に見るように、ホテルスタッフが毅然としつつも誠実に対応することで、お客様は最終的に「ではお願いしますね」と納得されました。困難な場面こそ、接客の真価が問われる瞬間だと言えるでしょう。