
日本語の敬語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の三つがあることは、多くの方がご存じだと思います。中でも謙譲語は、特にビジネスの場面や接客の現場でよく使われるため、「正しく使えているだろうか」と不安に感じる人が少なくありません。実際、謙譲語を誤って使うと「相手を立てるつもりが、かえって不自然に聞こえる」ということもあります。
本記事では、謙譲語の基本的な形から丁重語と呼ばれる表現までを整理し、実際の場面でどのように使い分ければよいのかを丁寧に解説していきます。
謙譲語は、話し手である「私」が自分の行動を低めて表現することで、その動作の相手――つまり「お客様」や「上司」などを立てる働きがあります。ここで大切なのは、「自分がどう見えるか」ではなく「相手をどう立てるか」という視点です。
基本的な形は大きく分けて次の二つです。
この二つが謙譲語の中心となります。
まず一つ目の形は「お(ご)+動詞+する」です。これは、自分が相手に何かをする動作を表すときに使います。
ここで「お」と「ご」の使い分けも押さえておきましょう。
ただし例外もあるため、最終的には慣用的に使われている形を身につけることが大切です。
次に「お(ご)+動詞+いたす」という形です。これは「お(ご)〇〇する」よりも丁寧さを強めた言い方になります。
「いたす」は「する」の謙譲語なので、組み合わせることでさらにへりくだった表現になります。ビジネスメールやお客様に対する口頭での案内など、より丁寧さが求められる場面でよく用いられます。
ここまで紹介した二つの形には共通の特徴があります。それは「動作の向かう先に相手がいる」という点です。
たとえば――
このように、相手が存在して初めて成り立つ動作に対して謙譲語を使うのです。相手を立てるための敬語であることが、ここでよく分かりますね。
しかし謙譲語の中には、動作の相手が存在しなくても使えるものがあります。それが「丁重語」と呼ばれる表現です。
丁重語では「いたす」を使って、自分の行動を控えめに述べます。特徴は「相手を立てる」というより「自分を下げて丁重に表現する」ことです。
これらは相手がいなくても成立する動作です。つまり「誰かに伝える」というよりも、「自分の行為を控えめに述べる」という役割を果たします。
丁重語は相手がいない場合だけでなく、相手がいる場合でも使われることがあります。たとえば次のような場面です。
お客様に対して、自分が同僚に連絡したという事実を伝える場合です。
ここで立てているのは同僚ではなく、お客様です。つまり「お客様に報告する」ために、あえて自分の動作を控えめに述べているわけです。
このように、丁重語は「相手を立てる」直接的な働きはなくても、お客様に対して礼を失しない伝え方をするために使われます。
謙譲語を使う上で注意したいのは、「二重敬語」と「不要な敬語化」です。
これらは「ご連絡する」「ご説明する」という謙譲語に、さらに「させていただく」を重ねた形です。本来は不要な重ね方で、不自然に聞こえる場合があります。ただし近年ではビジネスメールや会話で一般化しているため、場面に応じて使い分ける柔軟さも必要です。
「丁寧にすればするほど正しい」とは限らないのが敬語の難しいところです。言葉の由来や本来の意味を理解しておくことが重要です。
実際のビジネス場面を想定して、謙譲語をどう使えばよいか整理してみましょう。
このように場面ごとに使い分けると、自然でかつ相手を尊重した表現になります。

謙譲語は「相手を立てるために自分を下げる」言葉です。基本形は次の二つでした。
さらに、相手がいなくても自分の行動を控えめに表す「丁重語」もありました。
謙譲語を正しく理解すると、単に「丁寧に聞こえる」だけでなく、「相手を尊重している」という姿勢を伝えることができます。特にビジネスや接客の場面では、この心構えが信頼につながります。
「とりあえず丁寧に」と考えるよりも、「相手を立てるためにどの言葉を選ぶか」と意識することで、自然で気持ちの良い日本語表現が身についていくでしょう。