「薬を使わずに双極性障害(双極症)を治すことはできるのか?」――この問いは、多くの患者さんやご家族にとって非常に関心の高いテーマです。副作用への不安や、薬に頼らずに自分の力で克服したいという思いから、薬なしでの治療を望む声は少なくありません。
しかし、結論から言えば「薬なしでの安定維持は極めて難しい」と精神科医は断言します。その理由を、病気の本質や研究結果、誤診の可能性、そして自己管理の限界といった観点から整理していきましょう。

双極性障害は「気分の波が極端に大きくなる病気」です。通常の人にも気分の浮き沈みはありますが、双極性障害ではその波が病的なレベルに達します。
この躁と鬱を繰り返すのが特徴であり、患者は平均して10回以上のエピソードを経験するといわれています。
大切なのは「躁とうつをなくす」ことよりも、「再発を予防すること」です。双極性障害の治療目標は、この波をいかに抑え、生活の安定を取り戻すかにあります。
双極性障害は「脳の機能そのものに異常がある」病気です。環境要因やストレスだけで説明できるものではありません。
そのため、生活習慣の改善やカウンセリングだけで根本的に安定させることは困難です。臨床研究でも、再発予防効果が科学的に立証されているのは「気分安定薬」のみです。
双極性障害は100人に1人が罹患するとされ、日本では120万人以上の患者さんが存在します。決して珍しい病気ではなく、膨大な研究が重ねられてきましたが、それでも薬以外の方法で再発を防ぐ確かな手段は見つかっていません。

インターネットやSNSでは「薬をやめて治った」という体験談を目にすることがあります。ですが、その多くは以下のケースに当てはまる可能性が高いと考えられます。

双極性障害の患者さんの中には、「鬱が改善した」と勘違いしながら実際には軽躁状態になっている方が少なくありません。
軽躁状態は社会生活が破綻するほどではないため見過ごされがちですが、放置すればその後の大きな鬱エピソードにつながります。精神科医が特に注意を促すサインは以下の通りです。
これらは本人にとって「調子が良い」と感じられるため、自己申告されにくいのが特徴です。しかし、まさにここが再発予防の要となるポイントです。

双極性障害の再発予防には「気分安定薬」が中心となります。代表的なものにはリチウムやバルプロ酸などがあります。
また、軽躁や躁状態が出てしまった場合には、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールといった抗精神病薬を短期間併用して症状を抑えることが推奨されます。
こうした薬物療法によって、気分の波が生活を壊すほど大きくなることを防ぐのです。
双極性障害の患者さんの中には「統合失調症よりは自分の力で克服できるのでは」と考える方が少なくありません。エネルギー自体は保たれているため、「完治を目指したい」という強い思いが芽生えやすいのです。
しかし、現実的には薬をやめることで再発リスクが高まり、かえって生活の質が低下することが多いのです。精神科医としては「超少量であっても薬を継続してほしい」というのが正直な願いです。
双極性障害は「薬なしで完全に治る」病気ではありません。もちろん、生活習慣の改善や心理的支援は大切ですが、それだけで安定維持するのは極めて困難です。
双極性障害は決して珍しい病気ではなく、研究の積み重ねによって治療法は確立されています。大切なのは「薬に頼る=弱いこと」ではなく、「薬を活用することで自分の人生を守る」という視点です。
薬物療法と自己管理を両立させながら、長期的に安定した生活を送ることこそが、双極性障害と向き合う上での現実的で最善の道だと言えるでしょう。