
ビジネスの現場において、名刺交換は単なる形式的な儀礼ではなく、相手との最初のコミュニケーションであり、印象を大きく左右する大切な行為です。特に初対面の商談では、名刺交換の場面が双方の第一印象を決定づけることが少なくありません。本稿では、名刺交換における基本的なマナーや心得を整理し、実際の商談で役立つ実践的なポイントを解説します。
まず押さえておくべきは、名刺交換は必ず 立って行う という点です。椅子に座ったまま名刺を差し出すのはマナー違反にあたり、相手への敬意を欠く行為と受け取られかねません。特に商談の冒頭では姿勢を正し、立って正面から丁寧に行うことが大切です。
また、テーブルを挟んで名刺を差し出すのも避けるべき行為です。机や障害物が間にあると、相手に「距離を取られている」といった印象を与えてしまいます。名刺交換はできる限り障害物を取り払った状態で行いましょう。もし建物の構造上、どうしてもカウンター越しに行わなければならない場合には、「カウンター越しに失礼いたします」と一言添えることで、丁寧な対応になります。
名刺を受け取ったら、すぐに名刺入れやポケットにしまい込むのは避けましょう。名刺は「相手の顔そのもの」であり、粗略に扱うことは相手に失礼です。受け取った名刺は、自分の名刺入れの上に一旦置き、そのままテーブルに出すのが基本です。
机の上に置く位置は、自分の 左斜め前方 が基本です。これは日本の伝統文化にある「左上右下」の考え方に基づいています。古くから「左が上位、右が下位」とされてきたため、相手の名刺を左側に置くのが礼儀とされています。
複数人から名刺を受け取った場合は、最も役職が高い方の名刺を名刺入れの上に置き、それ以外は直接テーブルに並べます。決して名刺を重ねて置かないようにし、顔と名前を一致させるために、相手の座る位置と名刺を対応させて配置しましょう。
よく質問されるのが「いただいた名刺にメモを書いてもよいのか」という点です。結論から言えば、商談中に名刺に直接書き込みをするのは厳禁です。名刺は相手の分身であり、その場で書き込む行為は、相手の顔に落書きをするのと同じくらい失礼とされています。
ただし、商談終了後に相手と別れた後であれば、整理を兼ねて日付やその日の話題を名刺の裏面に記しておくのは有効です。後から振り返る際に役立ちますし、記録を正しく残すことで次回以降の商談にも活かせます。
商談が終わりに近づいたら、名刺をしまうタイミングを計ります。基本的には、同行している上司や先輩が名刺をしまったら、それに合わせて自分も片付けるのが望ましい流れです。
ただし、資料が多くてスペースが足りない場合や、交換した名刺の数が多すぎる場合には、先方の名前を覚えた後で「失礼いたします」と一言断ってから名刺をしまうのも適切です。
本来あってはならないことですが、万が一名刺を持参するのを忘れてしまった場合の対処法も知っておく必要があります。
その際は「名刺を忘れました」と言うのではなく、「大変申し訳ございません、ただいま名刺を切らしておりまして」と丁寧に詫びたうえで、口頭で社名と氏名を名乗ります。商談後は速やかにお詫び状を添え、名刺を郵送するのがマナーです。このような心配りによって、「名刺を忘れた人」ではなく「誠実に対応する人」という印象に変えることができます。
また、忘れ防止のために、常に携帯する予備の名刺入れを一つカバンに入れておくと安心です。
単に受け取るだけではなく、相手の名刺に触れた際のちょっとした一言で、良い印象を与えることができます。
例えば、顔写真付きの名刺なら「これでお顔を忘れることはありませんね」と伝える、デザインに特徴があれば「とても印象に残りますね」と言葉を添える。誰しも自分の名刺を褒められれば嬉しいものですし、自然と相手の心を開くきっかけになります。
また、珍しい名字や難しい漢字の場合は、「この漢字は〇〇様とお読みするのですね」と確認することで会話が広がります。聞き取れなかった場合は「恐れ入りますが、お名前はどのようにお読みすればよろしいでしょうか」と素直に尋ねましょう。一番避けたいのは、間違った名前で呼んでしまうことです。
なお、名刺の裏面にローマ字表記があることも多いため、聞く前にまず名刺全体を確認することも忘れないようにしましょう。
名刺交換は単なる儀礼ではなく、ビジネスパーソンとしての姿勢や相手への敬意を示す大切な場面です。基本を守ることはもちろんのこと、相手の名刺を丁寧に扱い、そこに一言添える気配りができることで、商談の雰囲気が大きく変わります。

こうしたポイントを意識することで、名刺交換は単なる形式から「信頼関係を築く第一歩」へと変わっていくのです。