――新入社員の心を折らないために――

新入社員にとって入社直後の言葉は強い影響を持ちます。特に気をつけたいのが、年代や背景を引き合いにして否定するような言葉です。
「俺の若い頃はもっと大変だった」
「今の人はこれだからダメなんだ」
こうした言葉は、本人の努力や存在そのものを否定するように響いてしまいます。たとえ冗談のつもりでも、新入社員の心には深く突き刺さり、「この職場では頑張っても意味がないのか」と感じさせてしまうのです。
ある先輩と新人の会話を例にしましょう。
新人:「すみません、手順に時間がかかってしまって…」
先輩:「大丈夫。慣れるまでみんな同じだよ。俺だって最初は倍以上かかってたし」
新人:「そうなんですか…ちょっと安心しました」
先輩:「そうそう。焦らなくていい。確実に覚えた方が後で早くなるんだ」
同じ状況でも、「俺の頃はもっと大変だった」という比較ではなく、「自分も通ってきた道だ」と共感を示すことで、新人は安心し、学ぶ姿勢を保ちやすくなります。
つまり人材育成は、相手を否定するのではなく「理解」から始めることが第一歩なのです。

仕事を覚える過程で欠かせないのが「報告・連絡・相談」です。ところが、指導者の言葉ひとつでこの大切な仕組みが壊れてしまうことがあります。
「前に教えたよね?」
「そんなこと自分で考えてよ」
こう言われると、新人は「質問すると怒られる」「相談したら迷惑がられる」と感じ、口を閉ざしてしまいます。その結果、問題が大きくなってから発覚する――という最悪のパターンに陥りがちです。
実際の現場での会話例を見てみましょう。
新人:「すみません、この部分の進め方に迷ってしまって…」
先輩:「聞いてくれてありがとう。ここは判断が難しいところだから、一緒に確認しよう」
新人:「あ、ありがとうございます!」
先輩:「次からはこういう基準で判断するといいよ。分からなかったらまた聞いてね」
このように「相談してくれて助かった」と伝えるだけで、新人は「報告することに価値がある」と実感します。逆に頭ごなしの否定は、やる気を奪い、孤立を招くのです。
また、会社や職場の悪口も同様に新人のモチベーションを下げます。たとえ不満があっても、希望を持って入社した新人に伝える必要はありません。「どうせ辞めていく」「ブラックだから」などの言葉は、未来を閉ざす刃になりかねません。

日本の職場文化には、未だに「気合い」「根性」で乗り越えるべきだという考えが残っています。しかし、それは新入社員の成長をむしろ阻害します。
「もっと必死にやれ」
「気合いが足りない」
こうした言葉は、一見熱心な指導のようでいて、実際には「考える力」を奪いかねません。新人は「どうすれば改善できるか」ではなく、「どうすれば怒られないか」に意識が向いてしまうからです。
ここで理想的な会話の例を挙げます。
新人:「思ったより時間がかかってしまって…」
先輩:「なるほど。どこで手間取った?」
新人:「確認作業の部分です。資料の探し方に迷って…」
先輩:「いい気づきだね。資料を探すときは、この順番で見れば効率が上がるよ。次は試してみようか」
新人:「はい!次はもっと早くできそうです」
このように、原因を一緒に探し、改善策を具体的に伝えることで、新人は「努力が形になる」体験を積むことができます。単なる「根性論」ではなく「考える力」を育てることが、人材育成の本質なのです。
新入社員にかける言葉は、その後の成長やモチベーションに大きな影響を与えます。
指導とは「その人の未来を拓く種をまく行為」です。つい口をついて出る一言が、新人の成長を加速させるか、あるいは心を折るかを決めます。だからこそ、指導する側には「言葉を選ぶ責任」があります。
人材育成は「仕事を覚えさせる」ことではなく「人を育てる」こと。相手を尊重し、安心して挑戦できる環境を整えることが、最も効果的な仕事の教え方なのです。