現代社会において、「依存症」という言葉は決して珍しいものではありません。アルコール依存症、薬物依存症、窃盗依存症、痴漢依存症、ギャンブル依存症、そして近年急増しているスマートフォン依存症など、依存症の形は多岐にわたります。
こうした依存症は単なる「意思の弱さ」や「だらしなさ」の問題ではなく、脳の仕組みと深く関わる「病気」であるということを、まずは理解する必要があります。

依存症を理解するうえで大切なキーワードが「報酬系」です。人間の脳には、快楽や達成感を感じたときにドーパミンという神経伝達物質が分泌される仕組みがあります。これがいわゆる「報酬系」と呼ばれるシステムです。
たとえば仕事をやり遂げたときの満足感や、趣味に没頭しているときの高揚感も、この報酬系が働いているからこそ得られるものです。いわゆる「ゾーン」に入るような感覚も、この報酬系によってもたらされます。
しかし、依存症に陥る人は、この報酬系が特定の行為や物質に過剰に反応してしまいます。ギャンブルをするとドーパミンが大量に出る。アルコールを飲むと幸福感に包まれる。薬物を摂取すると一気に快楽に支配される。こうした「異常な回路」が形成されてしまうのです。
その結果、依存症の人は「やめたくてもやめられない」という状況に陥ります。つまり、依存症は脳の仕組みに起因する「病気」であり、本人の根性や気合でどうにかできるものではないのです。

世間では依存症に対して厳しい見方が根強く残っています。
「お酒をやめればいいだけなのに」「ギャンブルに行かなければいい」「スマホを見なければいい」――。
このように、依存症を「意思が弱いから治らない」と判断してしまう人は少なくありません。
しかし、がんを例に考えてみると分かりやすいでしょう。
がんにはステージ1から4まであり、初期であっても手術が必要で、進行すると抗がん剤による延命治療が中心になります。いくら「自分の力でがんを治そう」と気合を入れても、がんが自然に消えてなくなることはありません。治療には医学的な介入が不可欠です。
依存症も同じです。「やめればいい」と簡単に言えるものではなく、脳の報酬系に根ざした病気なのです。

依存症の厄介なところは、一度出来上がった報酬系の回路が簡単には元に戻らない点です。依存対象に触れると、わずかな刺激でも大量のドーパミンが分泌され、再び強烈な快楽が押し寄せます。そのため「一度だけなら」と思って手を出してしまうと、簡単に再発してしまうのです。
ただし、希望もあります。研究によれば、依存対象から少なくとも1~2年ほど離れた生活を続けることで、過剰に肥大化した報酬系の反応が弱まり、正常に近づく可能性があるとされています。
つまり、依存症の回復には「時間」と「距離」が不可欠なのです。
では、具体的にどのように依存対象から距離を取ればよいのでしょうか。答えはシンプルで、「その対象から離れる生活習慣をつくること」です。
このように、依存対象に「触れない」ことを日常のパターンとして徹底することが何よりも大切です。
依存症の人にとって、こうした習慣を自力でつくることは非常に難しい作業です。なぜなら、多くの場合、依存行為そのものが家族や人間関係の中で抱える寂しさや不安を埋める役割を果たしているからです。
そのため、家族やパートナーが直接サポートしようとしても、逆に関係性が悪化したり、依存行動を助長してしまうケースも少なくありません。
だからこそ、依存症の回復には「専門家」との関わりが重要になります。医師、カウンセラー、回復プログラムを運営する団体など、信頼できるプロと一緒に生活習慣をつくっていくことが、再発防止への近道となります。
「魔法の薬」や「たった一つの解決法」は存在しません。依存対象から離れる生活を支える仕組みを、信頼できる専門家と共につくりあげること。それが、依存症の人が「変わる」ための現実的な方法なのです。
依存症の人と向き合うとき、周囲の人が心に留めておきたいのは次の点です。

依存症は一度発症すると長い時間をかけて向き合わなければならない病気です。しかし、正しい理解とサポートがあれば、回復の道を歩むことは可能です。
「意思が弱い」と突き放すのではなく、「脳の病気だからこそ支えが必要なのだ」と捉える。その視点こそが、依存症の人が変わるための第一歩になるのです。