
人間関係は、私たちの心の健康に大きな影響を与えます。家族や友人、職場の同僚などさまざまな関係がありますが、中でも夫婦関係は人生の中で特に深い影響を及ぼすものです。夫婦関係が円満であれば安心感や幸福感が得られる一方で、関係が不安定になれば大きなストレスとなり、精神的な不調の引き金にもなり得ます。
精神疾患の発症には大きく分けて二つの要素があります。一つは「体質」によるもの、もう一つは「ストレス管理の難しさ」によるものです。疾患の種類によって、どちらの要素がより強く影響するかは異なります。たとえば統合失調症の場合は三分の二が体質の影響によるものと考えられ、残りの三分の一がストレス管理の要因に関連します。逆にうつ病では、三分の二がストレス管理の難しさに関係し、体質的な要因は三分の一程度とされています。つまり、どの疾患においても体質とストレスの両方が影響しますが、とりわけ「ストレスの管理」は予防や悪化防止のために極めて重要な課題なのです。
その中でも夫婦関係はストレスの大きな要因のひとつです。特に性生活にまつわる問題は、夫婦の不和や心の不調に直結しやすいテーマでありながら、他人には相談しづらい領域でもあります。実際のところ、統計によれば日本の夫婦の約三分の二が「セックスレス」であると言われています。この数字は決して珍しいことではなく、多くの夫婦が似たような課題に直面していることを示しています。
では、なぜ夫婦の間で性生活の不一致やセックスレスが起きてしまうのでしょうか。その代表的な原因として、三つの大きな要素が挙げられます。

1. パートナーへの好意の低下
結婚当初は互いに好意や愛情を強く持っていても、年月が経つにつれてその気持ちが変化していくことがあります。パートナーに対する尊敬や愛情が薄れ、好意を抱けなくなってしまうと、性生活に積極的になれなくなるのは自然な流れです。
2. 親子・兄弟のような関係への変化
長年連れ添っているうちに、夫婦というよりも親子や兄弟のような関係に変化する場合があります。生活を共にし、家事や子育てを協力し合う中で「家族」としての絆は深まりますが、異性としての関心は弱まってしまうことがあります。その結果、性的なつながりよりも生活共同体としての色合いが強くなり、セックスレスへとつながります。
3. 性欲や関心のミスマッチ
最も多い原因のひとつが、性に対する欲求や関心のズレです。片方が積極的であっても、もう片方がその気持ちに応じられない場合、互いに不満や疎外感を抱くことになります。ここには男女差も深く関係しています。

一般的に、男性は「性的なつながりを持つことで愛情を実感する」という傾向があります。つまり、性行為そのものが愛情の確認であり、関係の安心につながるのです。一方で女性は「愛情を感じてはじめて性的なつながりを持ちたい」と考える傾向が強くあります。この違いがあるために、夫婦間でミスマッチが生じやすく、セックスレスにつながってしまうことが少なくありません。
「好き」の感じ方の違い
さらに、男女で「好き」という感情の成り立ちや持続の仕方にも違いがあります。
女性は感情が積み重なる傾向があります。たとえば「子育てを任せきりにされた」「約束を守ってもらえなかった」といった小さな不満や我慢が積み重なり、ある一定のラインを超えると「もう無理」とブロックがかかるのです。夫からすると「突然嫌われた」と感じることもありますが、実際には長年の感情の蓄積が原因になっていることが多いのです。
一方、男性はその時々の感情に強く引っ張られやすく、嫌な出来事があっても比較的忘れやすい傾向があります。過去の不満を持ち越すよりも「今どうか」に重きを置きやすいため、女性との間で感情のギャップが生まれやすいのです。
女性は「全体を見て冷める」傾向があり、男性は「瞬間的な印象に左右されやすい」という特徴の違いを理解することが、夫婦関係を長続きさせる上で大切です。

人間関係は時とともに変化していきます。夫婦も例外ではなく、結婚当初は仲良しでも、年月を経る中で気持ちや関係性が変わっていくことは自然なことです。場合によっては別々の道を選ばざるを得ないこともあります。
重要なのは「ずっと仲良しでいなければならない」という考え方に縛られすぎないことです。もちろん、理想は生涯にわたり良好な関係を保つことですが、現実にはさまざまな変化があります。「結婚したからずっと愛し合わなければならない」「性生活がなければ夫婦失格だ」といった固定観念が強すぎると、それ自体が夫婦の負担になり、結婚や関係維持のハードルを高くしてしまいます。
夫婦関係や性生活に対する社会の価値観がもう少し柔軟になれば、当事者が抱えるストレスも軽減されるでしょう。大切なのは「お互いが納得できる形を見つけること」であり、必ずしも他人の基準に合わせる必要はありません。

夫婦関係、特に性生活に関する問題は、多くの人にとって切実でありながら相談しにくいテーマです。しかし、これは決して特別な悩みではなく、多くの夫婦が経験するごく一般的な課題でもあります。
体質やストレス要因によって心の病は引き起こされますが、ストレスの中でも「夫婦関係のストレス」は大きな割合を占めます。だからこそ、夫婦がお互いの違いを理解し、柔軟に歩み寄る姿勢を持つことが大切です。そして、社会全体が夫婦関係の多様性を認めることで、より健やかな人間関係と心の健康を育むことができるでしょう。