「慢性疲労症候群(CFS: Chronic Fatigue Syndrome、近年ではME:筋痛性脳脊髄炎とも呼ばれる)」は、長期に渡り強い倦怠感が続く病気で、日常生活に大きな支障をきたします。しかし、その症状が抑うつ状態と似ている部分があるため、医療現場でも「うつ病と混同されやすい疾患」としてしばしば議論されます。
近年では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症として、長期的な疲労や思考力の低下が報告され、CFSが再び注目を浴びています。
本稿ではCFSの特徴・診断方法・研究の進展・治療法の現状について整理し、うつ病との違いを分かりやすく解説します。

慢性疲労症候群の最大の特徴は、強い疲労感が6か月以上続くことです。単なる「疲れやすい」ではなく、買い物や掃除などの軽い活動ですら、その後1~2日間は強い倦怠感で動けなくなってしまいます。この「活動後に必ず悪化する」という現象は「労作後の疲労増悪(post-exertional malaise)」と呼ばれ、CFSを特徴付ける重要な症状です。
更に、CFSの患者には以下のような症状が見られることがあります。
診断にあたっては、甲状腺疾患・うつ病・貧血・癌など、他の疾患を除外したうえで「原因不明の強い疲労が6か月以上続く」場合にCFSとされるのが基本です。
CFSは「疲労感が強い」という点でうつ病と混同されがちですが、病態や経過には明確な違いがあります。
気分の落ち込みや意欲低下から「何もしたくない」と感じることが多いですが、軽い活動をするとむしろ気分が少し改善することもあります。
軽い活動を行うと必ず翌日以降に強い疲労が出て、場合によっては数日間寝込んでしまいます。
脳の中枢神経系における神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)の機能低下が原因と考えられています。実際にセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬が一定の効果を示し、脳脊髄液中のセロトニン代謝産物の低下も確認されています。
fMRI(機能的MRI)研究により、脳幹や視床下部の血流低下や情報処理能力の低下が見られることが分かっています。これはうつ病単独では証明されていない病態であり、CFS特有の特徴とされています。
抗うつ薬・精神療法など科学的根拠に基づく治療法が存在します。
未だに有効な薬物治療はなく、「ペーシング」と呼ばれる生活管理が中心です。これは「無理をしない・自分のペースを崩さない」ことを徹底するもので、活動を増やして改善を図るうつ病治療とは正反対のアプローチです。

CFS研究が本格化したのは1980年代以降で、特に1990年代後半からはfMRIを用いた脳機能研究が進みました。時間軸を追って脳の血流変化を観察することで、CFS患者では健常者と比べて脳幹・視床下部の血流低下が示されました。
ただし、この変化は統計的には群間で明らかですが、個人レベルで診断に使えるほど顕著ではないのが現状です。つまり、100人規模で比較すれば差が見えるものの、1人ひとりの臨床診断に即座に使えるマーカーにはまだなっていません。

CFSには、うつ病における抗うつ薬や統合失調症の抗精神病薬のような決定的な治療薬は存在しません。そのため、治療の中心は「生活の自己管理」となります。

CFS患者にとって最も重要なのが「ペーシング」です。これは、
といった工夫を意味します。うつ病では「できる範囲で活動を増やす」ことが回復に役立ちますが、CFSでは逆に悪化を招くため、活動と休息のバランスを崩さないことが最も大切です。
CFS自体には直接的な治療法がないため、慢性的な疲労によって引き起こされる二次的な問題――抑うつ、不眠、不安症状など――に対して薬物療法や精神療法が行われることがあります。

慢性疲労症候群は、うつ病と混同されやすい一方で、明確に異なる病気です。
6か月以上続く強い疲労、活動後の疲労増悪、ブレインフォグなどが特徴。他疾患を除外して診断する。
うつ病が神経伝達物質の異常による中枢神経系の疾患であるのに対し、CFSは脳幹や視床下部の情報処理機能低下が関与。
うつ病には薬物療法があるが、CFSには決定的な治療はなく「ペーシング」による生活管理が中心。
CFSは生活の質を著しく低下させ、社会生活を困難にする大変な病気である。
研究の進展はここ10年で大きく進みましたが、まだ治療法は限られています。CFSとうつ病を正しく区別して理解し、患者に適切な支援を行うことが今後ますます求められるでしょう。