私たちの心と体の健康は、日々の生活習慣に大きく左右されます。特に、規則正しい生活は心の安定につながることが多く、精神的な不調の予防や回復の一助となります。その生活習慣を支える要素として「食事」「睡眠」「入浴」「運動」という4本柱があります。本稿ではその中でも「食事」に焦点を当て、特に「1日3食とること」にどのような意味があるのかを、メンタルヘルスの視点から考えていきます。

食事は単に栄養を補給するだけの行為ではなく、心の安定や生活リズムを整える重要な役割を担っています。食事をきちんととることで血糖値が安定し、自律神経やホルモンの働きが整います。逆に食事を抜いたり、摂取のタイミングが不規則になると、自律神経のバランスが乱れ、精神的に不安定になりやすいのです。
では、なぜ3食とることが良いとされるのでしょうか。そこには大きく分けて「血糖値の安定」「食事の質」「習慣化による体内時計の安定」「生活の軸としての役割」という4つの理由があります。
食事を3回に分けて摂ることには、血糖値の乱高下を防ぐという重要な意味があります。血糖値が急激に上昇するとインスリンが分泌され、その後急激に下降することで低血糖状態になります。この乱高下が繰り返されると、交感神経が優位になり、ストレスホルモンであるコルチゾールが多く分泌されます。
交感神経が過度に活性化すると、常に緊張状態に置かれ、心身に負担をかけます。その結果、疲労感や不安感が強まり、メンタル疾患のリスクを高める要因となるのです。
例えば、1日1食や2食で必要なカロリーを補おうとすると、一度に大量に食べることになり、血糖値の波が大きくなります。そのため精神的に不安定になりやすく、集中力や気分の落ち込みにも影響してしまいます。小まめに食事をとることは難しくても、少なくとも3食に分けて摂ることで血糖値の安定が図れるのです。

ただ3食食べれば良いというわけではなく、その「質」が重要です。炭水化物を中心とした食事は消化吸収が早く、血糖値を急激に上げ下げします。例えば、白米やパン、甘いお菓子を多く摂ると、短時間でエネルギーになりますが、その後急激に血糖値が下がり、疲労感や眠気、不安定な気分を招くことがあります。
一方で、タンパク質を中心にした食事は、血糖値を緩やかに上昇させ、緩やかに下降させるため、安定感が生まれます。赤身の肉や魚、鶏のささみ、大豆製品などは良質なたんぱく源であり、神経伝達物質の材料にもなります。精神の安定を保つためにも、タンパク質を中心に、炭水化物や脂質をバランスよく組み合わせることが望ましいのです。
つまり、食事の回数と同じくらい、何を食べるかが大切なのです。

食事をとる時間を一定にすることは、体内時計(サーカディアンリズム)の安定につながります。体内時計は睡眠と覚醒、ホルモン分泌、体温調節などを調整しており、心身の健康に直結しています。
例えば、うつ病の方に日記を書いてもらうと、初期の段階では起床・就寝・食事の時間がバラバラなことが多いです。しかし症状が改善してくると、自然にそれらの時間が整っていきます。これは、生活リズムの安定がメンタル回復に深く関わっていることを示しています。
したがって「3食食べること」そのものよりも、「同じ時間に食事を摂ること」の方が重要といえるのです。
人はどんな状況にあっても、完全に「食べない」ということはありません。引きこもっている方や、うつ病で活動が制限されている方でも、食事や睡眠は欠かさず行います。この「必ず行う行為」である食事や睡眠を生活の軸にすることで、リズムを整えやすくなるのです。
特に朝食は重要です。朝食をとることで腸が動き、「朝だ、活動の時間だ」という体のスイッチが入ります。散歩や運動ができれば理想ですが、難しい方は牛乳やヨーグルトなど、簡単なものを摂るだけでも良いのです。朝食が習慣になると、体内時計が整い、日中の活動がスムーズになります。
近年「16時間断食(インターミッテント・ファスティング)」が注目されています。これは1日のうち16時間を断食し、残りの8時間で食事をとる方法です。インスリン抵抗性の改善や、オートファジー機能(細胞が老廃物を再利用する仕組み)の活性化など、一定の効果が期待できると言われています。
しかし、断食中に血糖値が不安定になったり、空腹によってコルチゾールが分泌され過ぎたりするリスクもあります。そのため、人によってはかえって心身に負担となる場合もあります。大切なのは「自分に合うかどうか」を見極めることです。流行に流されるのではなく、自分の体調や生活リズムに合った食事スタイルを選ぶことが重要です。

「食事は3食とった方がいいのか」という問いに対して、答えは単純に「はい」か「いいえ」ではありません。3食に分けて食べることは血糖値を安定させ、メンタルを整える効果があります。しかしそれ以上に大切なのは、「食事の質」と「時間の安定」です。
タンパク質を中心としたバランスの良い食事を、毎日ほぼ同じ時間にとることで、体内時計が整い、心も安定しやすくなります。食事は単なる栄養補給ではなく、生活リズムをつくる大切な軸です。もし食事の時間や内容が乱れていると感じる方は、まず「決まった時間に食べること」から始めてみてください。それだけでもメンタルの安定に近づけるはずです。
心と体の健康を守る第一歩は、毎日の食事にあります。今日から意識してみてはいかがでしょうか。