完治しない心の病とどう生きていくか

完治しない心の病とどう生きていくか

完治しない心の病とどう生きていくか

心の病、すなわち精神疾患は、風邪や怪我のように「完全に治って忘れられる」ものではありません。病気によっては、薬を飲んで症状を抑えられることはあっても、体質的な要因や再発のリスクが残るため、完治という言葉は現実的ではないのです。では、私たちは「完治しない心の病」とどう向き合い、どう生きていけば良いのでしょうか。本記事では、精神疾患の特徴や治療のゴール設定、そして生活の質を高めるための視点について丁寧に解説します。

身体の病気と心の病気の違い

身体の病気と心の病気の違い

例えば、がんのステージ1であれば、手術によって腫瘍を切除することで「完治」する場合も少なくありません。身体の病気には、原因となる病巣を取り除くことで治療が終了するものが多くあります。

一方、心の病気はそうはいきません。統合失調症や双極性障害、うつ病といった代表的な精神疾患には、生まれつきの「体質」の影響が強く関わっています。

  • 統合失調症:発症の約60~80%は体質的な要素
  • 双極性障害:発症の約60~85%は体質的な要素
  • うつ病:30~50%は体質的要素、加えて50~80%は環境要因

つまり、精神疾患は「もともとの脳の働き方や気質」が深く関わっているため、薬や環境調整で症状を和らげることはできても、根本的な体質そのものを変えることは難しいのです。

また、発症年齢にも特徴があります。統合失調症や双極性障害は20代前後、うつ病は30歳前後で現れやすいとされます。20歳頃には脳や体質がほぼ固定されており、その段階で発症する病気は「完治」ではなく「うまく付き合っていく」ことが治療の目標になります。

精神疾患の治療目標とは

精神疾患の治療目標とは

心の病において「完全に治って忘れられる」ことを目指すのは、非現実的であり、かえって本人を苦しめてしまうことがあります。精神科医療での目標は次のように設定されます。

  • 困らない状態を保つこと
  • 日常生活の中で病気を意識しなくても過ごせる状態を目指すこと

これは、依存症や癖のコントロールにも似ています。例えば「万引き癖」は一生治ることはありません。しかし「万引きをしない状態」を長く保つことで、日常生活では万引きのことを考えずに過ごせるようになります。ストレスが溜まると衝動は顔を出すかもしれませんが、それをうまくかわして「しない生活」を続けることがゴールです。

精神疾患も同じです。薬を飲みながら生活し、困らない状態を維持し、薬を飲むことすら「生活の一部」として自然に受け入れられるようになることが大切なのです。

「完璧志向」が苦しみを深める

「完璧志向」が苦しみを深める

うつ病の方に特に多いのが「完璧に治したい」「薬をやめてこそ本当の回復だ」という考え方です。

薬を飲んでいる限り病気を忘れられない、薬をやめてこそ自分の人生を取り戻せる——そう信じてしまうのは、完璧主義の傾向が背景にあります。

しかし、実際には「病気はあってもできることに目を向ける」ことのほうが生活の質を高める近道です。

たとえ毎月の通院や薬の服薬が必要であっても、その中で「できたこと」「楽しかったこと」「これからやりたいこと」に意識を向けると、病気にとらわれずに生きる力が湧いてきます。

外来での関わり方の工夫

外来での関わり方の工夫

通院中の方におすすめしたいのは、外来で医師に話す内容の工夫です。

多くの方は「できなかったこと」「辛かったこと」に意識が集中しがちですが、そればかりに焦点を当てると自己否定感が強まりやすくなります。

そこで意識してほしいのは、

  • 今できていること
  • 最近楽しかったこと
  • 将来挑戦したいこと

といった前向きな話題を取り入れることです。そうすることで、自分が「できていないこと」から解放され、病気に縛られずに生きやすくなります。

再発とどう向き合うか

精神疾患は、一度良くなってもストレスなどをきっかけに再発する可能性があります。これは「体質」に根差す病気である以上避けがたい特徴です。

しかし、再発したとしても「元に戻ってしまった」と考える必要はありません。再発を繰り返す中で、自分なりの対処法や限界の見極め方を身につけることができます。それは決して後退ではなく、むしろ病気と付き合う「経験値」が増えていく過程です。

「完治しない病」と共に生きるために

精神疾患は「治すもの」ではなく「付き合うもの」です。完治を目標にすると苦しみが深まりますが、「困らない状態を保つ」「病気を忘れられるくらいに生活に溶け込む」という現実的な目標を持つことで、生きやすさが広がります。

  • 薬を飲んでいても良い
  • 通院を続けながらできることを増やせば良い
  • 病気は自分の一部であり、人生の全てではない

こうした視点を持つことで、完治を追い求める苦しみから解放され、今できることを大切にした生活が実現できます。

心の病は完治しなくても、忘れて過ごせる日常を作ることは可能です。病気にとらわれるのではなく、自分の生活の中に自然に受け入れていく——それこそが「心の病と共に生きる」ための大切な姿勢なのです。