医者に期待していいこと

医者に期待していいこと

医者に期待していいこととは?―精神科・心療内科にかかる方へ

精神科や心療内科に通うとき、多くの方が「お医者さんはどこまでやってくれるのだろう」「どの程度まで頼っていいのだろう」と疑問に思われるのではないでしょうか。病気に直面しているとき、医師に対する期待は自然に大きくなります。しかし、医療において「必ずやってくれること」と「やってくれたらラッキーなこと」は明確に分けて考える必要があります。

この記事では、精神科・心療内科の診療の現場を踏まえて、医師に期待できることを整理し、患者さんやご家族が安心して通院できるための視点を解説していきます。

1. 医者に必ず期待してよいこと

1. 医者に必ず期待してよいこと

まず「必ずやってくれること」です。これはクリニックや病院での診療行為として確実に行われる部分であり、患者側も安心して期待してよい内容です。代表的なものは以下の三つです。

(1)診断

精神科や心療内科を受診した場合、医師は問診や観察を通じて病名を判断します。これは医師の最も重要な役割の一つです。

例えば、気分が落ち込み意欲が出ない状態で受診した場合、「うつ病」「適応障害」「双極性障害」など、症状の性質や持続期間、背景要因を考慮して診断が行われます。この診断があることで、初めて治療方針が定まり、次のステップに進むことができます。

診断は、保険診療の仕組みにおいても欠かせないものです。日本の医療制度では、薬を一つ処方するにしても、その根拠となる病名を必ず付ける必要があります。たとえば、バルプロ酸(デパケン)を処方する場合には「双極性障害」や「てんかん」といった診断名が必要となります。診断名があって初めて医療機関は診療報酬を請求できるため、診断は医師の基本的かつ不可欠な業務なのです。

(2)薬物療法

診断がついた後には、薬物療法が行われます。これは精神科医療の中核を成す治療方法です。

もちろん、医師ごとに得意分野や処方のスタイルには違いがあります。同じ病名でも「この薬を第一選択にする」「少量から試す」「副作用を強く警戒する」といった個性が見られますが、どの医師もその患者にとって最良の方法を考え、経験やガイドラインを踏まえた薬物療法を行っています。

患者さんから見ると「先生によって薬の出し方が違う」と戸惑うことがあるかもしれませんが、それは必ずしも間違いではありません。むしろ、治療には幅があり、患者一人ひとりの状態に合わせて調整しているのです。

(3)診断書の作成

診断や治療の結果、就労や学業に支障がある場合、診断書が必要になります。休職や休学の手続き、障害年金の申請、会社や学校への説明など、社会生活を送るうえで診断書は大切な役割を持ちます。

診断書の作成は、医師にとって正式な医療行為の一部であり、患者が希望すれば必ず応じてもらえます。もし診断や薬物療法、診断書作成のいずれかが不十分であれば、その医療機関からは離れることを検討した方がよいでしょう。

2. 医者が「やってくれたらラッキー」なこと

2. 医者が「やってくれたらラッキー」なこと

次に、「やってくれたらありがたいが、必ずしも期待できるわけではないこと」です。これらは医師のスタイルや診療体制によって対応が分かれる部分であり、受けられれば非常に助かる支援です。

(1)カウンセリング

精神科医によるカウンセリングは、認知のゆがみを修正したり、ネガティブな思考をポジティブに切り替えたり、人格の成長を促したりする上で効果があります。

しかし現実には、多くのクリニックは5分から10分程度の短時間診療です。その中で診断を行い、薬を処方し、診断書を作成するとなると、じっくりとしたカウンセリングまで手が回らないのが実情です。

心理士による専門的なカウンセリングを併設している医療機関もありますが、それはまだ一部に限られています。そのため、医師が時間を割いてカウンセリング的な関わりをしてくれる場合は「ラッキー」と考えた方がよいでしょう。

(2)福祉制度の提案

精神疾患を抱える方にとって、医療だけでなく福祉の支援も非常に重要です。代表的なものには「自立支援医療制度」や「精神障害者保健福祉手帳」があります。これらは医療費の自己負担を軽減したり、就労支援や生活支援につながったりする制度です。

しかし、医師が積極的にこれらの制度を紹介してくれるかどうかはケースバイケースです。「この方には必要だ」と判断して提案する医師もいれば、診療に専念して制度面には踏み込まない医師もいます。したがって、福祉制度に関する具体的な説明や提案があれば、それは幸運と考えてよいでしょう。

(3)生活習慣の指導

精神疾患の回復には、薬だけでなく生活習慣の改善が大切です。睡眠リズム、食生活、運動習慣、対人関係のあり方など、日常生活の工夫が症状の安定に直結します。

医師の中には、診療の中でこうしたアドバイスを丁寧に行ってくれる方もいます。しかし時間の制約や診療方針によっては、そこまで踏み込まない場合も少なくありません。したがって、生活習慣の指導を受けられる場合も「やってくれたらラッキー」に含まれるでしょう。

3. 患者が理解しておくとよいこと

3. 患者が理解しておくとよいこと

医師に過度な期待を寄せすぎると「思ったようにしてくれない」と失望することがあります。逆に、最低限やってくれることと、追加でしてもらえるかもしれないことを区別しておくと、診療に対する満足感や安心感が高まります。

  • 必ず期待できること
    • 診断
    • 薬物療法
    • 診断書作成
  • やってくれたらラッキーなこと
    • カウンセリング
    • 福祉制度の提案
    • 生活習慣の指導

このように整理しておくと、医師に求めすぎずに済みます。また、もし不足を感じた場合は、心理士、ソーシャルワーカー、地域の相談窓口など、他の専門職に支援を求める選択肢も持つことができます。

まとめ

まとめ

精神科や心療内科の診療では、「医者に期待していいこと」と「やってくれたらラッキーなこと」を分けて考えることが大切です。診断・薬物療法・診断書作成は必ず行われる基本業務であり、これをしっかりしてくれる医師であれば安心できます。

一方で、カウンセリング、福祉制度の提案、生活習慣の指導などは、医師のスタイルや診療体制によって受けられるかどうかが変わってきます。もしこうした支援を受けられたら幸運と考え、さらに必要であれば他の専門職や制度を積極的に活用していくことが望ましいでしょう。

医師に過剰な期待を抱くのではなく、役割を理解したうえで上手に活用することが、治療の第一歩となります。