私たちが日常生活の中で「精神疾患」という言葉に触れる機会は、決して少なくはありません。テレビやインターネットのニュース、映画やドラマ、あるいは学校や職場での話題の中に登場することもあります。しかし、実際にどの程度の人が正確な知識を持ち、正しい理解をしているかと問われると、その答えは非常に心もとないものです。結論から申し上げれば、多くの人々は精神疾患について十分に知っているとは言えません。その結果、偏見や誤解が広まり、病気を抱えている方々の生活をさらに苦しいものにしている現状があります。
本記事では、代表的な精神疾患を例に挙げながら、世間における認知度や誤解の実態を解説し、なぜこうした認識の差が生まれるのか、そして私たちがどう向き合うべきかを考えていきたいと思います。

精神疾患の中でも特に誤解が多い病気の一つが「統合失調症」です。ニュースで事件が報じられた際に「加害者は統合失調症だったのではないか」といった憶測が広がることがあります。その根拠のない言葉は、病気とともに生きる方々に深い傷を与えます。
統合失調症は「頭がおかしい人」「危険な人」といったイメージで語られることが少なくありません。確かに一部の患者さんが幻覚や妄想によって行動が不安定になることはありますが、それは病気のごく一部の症状であり、多くの方は適切な治療を受けながら安定した生活を送っています。統合失調症を「危険」と短絡的に結びつけるのは、偏見であり正しい理解とは言えません。むしろ、偏見が強いがゆえに治療をためらったり、支援を求められなかったりする方が多いことが大きな問題なのです。

次に「双極性障害」について見ていきましょう。この病気は、かつて「躁うつ病」と呼ばれていたこともあり、気分の波が大きいことが特徴とされています。しかし世間では「気分屋」「ご機嫌の波が激しい人」という単純化された誤解を受けることがしばしばあります。
実際には、双極性障害は単なる性格の問題ではなく、脳の機能や気分の調節に関わる神経伝達物質の不均衡など、医学的な要因によって引き起こされます。躁状態では過度な自信や活動性の高まりがみられ、抑うつ状態では深い落ち込みに苦しむことがあります。この「躁」と「うつ」の波が繰り返されることで、本人も周囲も大きな負担を抱えることになるのです。
しかし外部から見れば「気分がコロコロ変わるだけ」と捉えられがちであり、社会的理解の不足が患者さんを孤立させてしまう現実があります。

比較的世間に知られている精神疾患といえば「うつ病」が挙げられます。近年は著名人の公表やメディアでの啓発もあり、以前よりも認知度は高まっています。しかし、その一方で誤解や偏見も依然として根強く残っています。
例えば「うつ病は甘え」「サボりたいから仮病を使っている」といった認識が一部にあります。職場や家庭で「気合でどうにかなる」と叱責されるケースもあり、当事者は本来の病気の苦しみに加えて、理解されない孤独感や自己否定感に苛まれることになります。
うつ病は脳の働きに関わる病気であり、単なる気分の落ち込みとは異なります。治療には時間がかかり、薬物療法や心理療法、休養など多角的な支援が必要です。にもかかわらず、その回復の過程を知らない人からは「まだ治らないのか」「怠けているのでは」と見られてしまうのです。このような誤解は、当事者が治療に専念する妨げになりかねません。
なぜ精神疾患の正しい知識が社会に広がらないのでしょうか。その理由にはいくつかの要因があります。
第一に、自分自身や身近な人が実際に病気を経験しない限り、理解が進みにくい点が挙げられます。身体疾患と違い、外からは症状が見えにくいため、想像だけで理解することが難しいのです。
第二に、精神疾患を持つ人が日常的に身近にいないコミュニティでは、そもそも関心が向けられにくいという現実があります。職場や学校の中で一人でも当事者がいれば認識は変わり得ますが、そうでない環境では「自分には関係ないこと」と片付けられてしまうのです。
第三に、メディアの報じ方も影響しています。精神疾患が犯罪と結びつけて報道されると、その病気全体が「危険」といったイメージで固定されてしまいます。正しい知識が欠けたままネガティブな情報だけが印象に残るため、偏見が温存されてしまうのです。

では、私たちはどのように精神疾患への誤解を減らし、正しい認知を広めていけばよいのでしょうか。
まず大切なのは「知ろうとする姿勢」です。精神疾患に関する本や記事を読む、当事者や家族の体験談に耳を傾けるといった行動は、理解を深める第一歩になります。
また、学校教育や職場での研修において、精神疾患に関する正しい知識を学ぶ機会を設けることも重要です。身体疾患と同じように、精神疾患も「治療が必要な病気」であると認識されれば、偏見は減っていくでしょう。
さらに、メディアの役割も大きいです。事件報道と精神疾患を安易に結びつけるのではなく、病気の実態や回復のプロセス、支援の必要性を丁寧に伝えることが社会の理解を広げる助けとなります。
そして何より、身近な人に対して「偏見のないまなざし」を持つことが大切です。もし周囲に精神疾患と向き合っている人がいれば、その人を特別視したり腫物扱いしたりするのではなく、ひとりの人間として尊重すること。それが一番の支援であり、社会全体の意識を変えていく基盤となります。
精神疾患は誰にでも起こりうる病気です。決して一部の人だけの問題ではなく、社会全体で理解を深め、支え合っていく必要があります。しかし現状では「知らないこと」による誤解や偏見が、当事者やその家族を苦しめています。
統合失調症、双極性障害、うつ病──いずれの病気も決して「危険」や「怠け」といったイメージで語られるべきものではなく、適切な治療と支援によって回復が可能な病気です。
私たち一人ひとりが正しい知識を持ち、偏見に基づく発言や態度を改めること。それが精神疾患を抱える人々にとって生きやすい社会をつくる第一歩となるでしょう。