自動車の運転免許は、多くの人にとって生活の基盤を支える重要な資格です。都市部に住んでいる人の中には公共交通機関で十分という人も増えてきましたが、地方に住む方にとっては車はまさに「生活の足」。病院や買い物、仕事や学校に行くにも車が不可欠という現実があります。
その一方で、「精神疾患を抱えていても運転免許を取れるのか?」「更新時に不利になるのではないか?」と心配される方も少なくありません。本稿では、精神疾患と運転免許の関係について、法制度や医師の判断基準、そして社会的な課題を解説していきます。
運転免許の更新時には、過去5年以内に一定の精神疾患にかかっているかどうかを自己申告する必要があります。対象となる代表的な疾患は次の5つです。
これらの疾患をお持ちの場合、更新時に「健康状態申告書」を提出し、場合によっては主治医の意見書が求められます。意見書では特に次の2点が重視されます。
この両方を満たしてはじめて免許の更新や交付が認められる仕組みになっています。
精神疾患の中でも、特にてんかんは大事故につながりやすい病気として知られています。報道でも「運転中に発作を起こし大事故」という事例が取り上げられることがあり、社会的にも注目度の高い問題です。
もちろん、適切に通院し薬でコントロールされている方も多く、必ずしも危険というわけではありません。しかし「予測不能な発作」という特性から、免許制度上では最も厳しく扱われる疾患のひとつとなっています。

では、実際に主治医が「運転可能」と判断する基準はどのようなものなのでしょうか。大きく次の3つがポイントになります。
① 過去5年間の入院歴
運転免許は通常5年ごとの更新です。そのため、この5年間に精神疾患での入院歴があるかどうかが大きな目安となります。入院するほどの症状は、しばしば「判断力の低下」や「言動の不一致」を伴います。運転は0.1秒単位の判断が求められる高度な作業であり、こうした状態では危険性が高いと見なされます。
② 投薬の安定性
治療薬が安定していることも重要です。例えば、うつ病の抗うつ薬、双極性障害の気分安定薬、統合失調症の抗精神病薬など、主要な薬剤(主剤)が頻繁に変わっている場合は、症状が安定していないと判断されやすいのです。反対に、同じ薬を長期間継続して使えている場合は「安定している」と評価されます。
③ 外来通院の安定性
もう一つの目安が、外来通院の規則正しさです。診察の日時を守って通院できるかどうかは、生活リズムや自己管理能力の一つの指標とされます。もちろん遅刻や欠席にはさまざまな事情がありますが、頻繁に通院できない人が車の運転に必要な「正確な時間感覚」「持続する集中力」を維持できるかという点は、慎重に考えざるを得ません。
最も懸念するのは、運転中の突発的な症状悪化です。例えば、幻覚や妄想が強く出ているとき、あるいは気分が極端に高揚・低下しているとき、ドライバー本人にとっては「大丈夫」と思っていても、周囲から見ると明らかに判断を誤っている場合があります。
交通事故は一瞬の判断の遅れや誤りで人命を奪う可能性があります。そのため、医師が「運転に支障なし」と記載する際には非常に大きな責任を感じざるを得ません。

都市部では「免許を返納しても公共交通機関で生活できる」ケースが多いですが、地方では事情が異なります。バスの本数が極端に少なく、病院やスーパーが遠方にしかない地域では、自家用車なしでの生活は現実的に困難です。
そのため「認知機能が少し落ちているが車がないと生活できない」といった高齢者も少なくありません。こうした状況では、リスクと生活の必要性のバランスをどう取るかという難しい問題が生じます。
精神疾患を持っていても、自動車免許を取得・更新できる可能性は十分にあります。ただし、条件があります。
これらが確認できれば、主治医の意見書でも「運転可能」と判断されるケースは少なくありません。
一方で、症状が不安定な時期に「生活のためにどうしても運転したい」と思っても、事故のリスクは本人だけでなく他者の命に直結します。焦らず治療を優先し、安定を取り戻してから免許取得や更新に臨むことが大切です。

精神疾患と運転免許の関係は、単なる「取れる・取れない」の二択ではありません。疾患の種類や症状の安定度、治療の継続状況によって判断が分かれます。そして医師は、その人の生活の必要性と同時に「社会全体の安全」を考慮して意見を出しています。
地方の交通事情や患者さんの生活背景を考えると、免許の問題は非常にデリケートです。それでも「入院歴がない」「薬が安定している」「通院が守れている」などの条件を整えることは、本人の生活の安心にもつながります。
精神疾患をお持ちの方が安全に運転できるよう、社会全体で理解を深め、サポート体制を整えていくことが今後ますます重要になるでしょう。