
統合失調症という病気には、大きく分けて「陽性症状」と「陰性症状」が存在します。陽性症状とは、幻覚や妄想といった、本来は存在しない体験をしてしまう症状を指します。一方で陰性症状とは、気持ちが落ち込んで意欲が低下し、行動や生活に支障が出る状態を指します。実際に統合失調症を患う方の多くが長く苦しむのは、この陰性症状であると言われています。今回は、統合失調症の陰性症状についての理解を深めるとともに、改善に役立つ生活習慣の重要性についてご紹介します。

統合失調症における陽性症状は、幻覚や妄想が代表的です。たとえば、誰かに監視されていると強く思い込む「被害妄想」や、存在しない声が自分に語りかけてくる「幻聴」などがあります。これらは、脳内のドーパミンという神経伝達物質が過剰に働くことで引き起こされると考えられています。
一方、陰性症状はうつ病の抑うつ状態に似ています。気持ちが落ち込み、やる気が起きず、生活に必要な行動がとれなくなる状態です。食事や入浴、外出など、日常生活の基本的な行動さえも負担に感じることがあります。統合失調症では、陽性症状が目立つ時期よりも、その後長く続く陰性症状のほうが大きな課題となる場合が多いのです。

統合失調症の症状の背景には、ドーパミンという脳内物質の働きが深く関わっています。ドーパミンは、喜びや意欲、集中力を高める役割を持ちますが、過剰に分泌されると幻覚や妄想を引き起こします。
陽性症状の時期にはドーパミンが過剰に分泌されます。しかし、その反動として、やがてドーパミンの働きが低下し、意欲の減退や抑うつ感といった陰性症状が長く続くのです。つまり、陽性症状と陰性症状は表裏一体であり、ドーパミンの不安定な働きが両者の原因となっていると考えられます。
治療に用いられる抗精神病薬は、このドーパミンの過剰な働きを抑えることで症状を安定させます。代表的な薬には、リスペリドン、パリペリドン(インベガ)、クエチアピン(セロクエル)、オランザピン(ジプレキサ)、アセナピン(シクレスト)などがあります。また、アリピプラゾール(エビリファイ)やブレクスピラゾール(レキサルティ)は、ドーパミンを単に抑えるだけでなく、出すぎているときには抑え、足りないときには補うような調整作用を持つとされています。

うつ病においては、認知行動療法などのカウンセリングが有効な場合があります。しかし統合失調症の陰性症状では、原因が「思考のゆがみ」や「心理的ストレス」ではなく、主に脳内の生物学的な変化にあるため、カウンセリングだけで改善を図ることは難しいのが実情です。
そのため、陰性症状の改善には、薬物療法と並んで「生活習慣を整えること」が極めて重要な柱となります。

統合失調症の陰性症状を和らげるためには、以下のような生活習慣の工夫が役立ちます。
1. 規則正しい食事
一日三食を決まった時間に摂ることは、体内リズムを整える基本です。特に朝食をきちんと摂ることで、体が目覚め、日中の活動を始めやすくなります。
2. 睡眠のリズムを整える
夜更かしは避け、可能であれば22時頃までに就寝するのが望ましいとされています。難しい場合でも、少なくとも深夜0時を超えないよう心がけましょう。朝は9時までには一度起き、外の光を浴びることで体内時計をリセットできます。
3. 日光を浴びる
天気が悪い日でも紫外線は地表に届いています。ベランダに出るだけでも効果がありますが、できれば短時間の散歩を取り入れるとよいでしょう。日光を浴びることは、自律神経を整え、気分の改善にもつながります。
4. 適度な運動
激しい運動である必要はなく、散歩やストレッチといった軽い運動を毎日続けることが大切です。体を動かすことで血流が改善し、脳の働きも安定しやすくなります。
5. 軽い仕事や活動
体調が許す範囲で、家事や趣味、ボランティアなどの軽い活動を行うことも効果的です。小さな達成感の積み重ねが意欲回復につながります。
陰性症状の辛さは「とにかく何もやる気が出ない」という点にあります。そのため、最初の一歩を踏み出すことがとても難しいのです。しかし、一度よい習慣が身についてしまえば、それは努力を必要とせず自然に続けられる行動になります。
例えば、夜に早く眠り朝に起きることも、初めは強い意志が必要です。しかし繰り返すうちに体が慣れ、自然と同じ時間に眠気が訪れるようになります。習慣化されれば、陰性症状の改善に大きな力を発揮します。
うつ病治療では「薬物療法」「カウンセリング」「生活習慣改善」がほぼ同等の柱として位置づけられています。一方、統合失調症の陰性症状においては、生活習慣改善こそが最も重要で太い柱となります。薬物療法ももちろん必要ですが、カウンセリングの効果は限定的です。
したがって、陰性症状に苦しむ方にとって「生活習慣を整える」ことは、回復への最短の道と言えるでしょう。

統合失調症の陰性症状は、幻覚や妄想といった陽性症状に比べて表面的には目立ちにくいものの、患者さんの生活を長期にわたり大きく制限してしまいます。その改善には、薬だけでなく、生活習慣を整えることが不可欠です。
「朝起きるのがつらい」「お風呂に入るのさえ大変」という声も少なくありません。しかし、よい習慣が身につけば、その後は大きな努力を必要とせず、自然に続けられるようになります。生活習慣の改善にはお金もかからず、副作用の心配もありません。小さな一歩を積み重ねることで、陰性症状の改善につながり、日常生活が少しずつ楽になっていきます。
統合失調症の陰性症状に苦しむ方々にとって、生活習慣の改善は希望の光となり得ます。「なんてたって生活習慣が大事」。この言葉を胸に、無理のない範囲で一歩ずつ取り組んでいただければと思います。