〜「したくない」と「できない」の違いを考える〜
私たちは日々の生活の中で、やらなければならないことに向き合いながら暮らしています。しかし心の調子が落ちているときには、当たり前のことがどうしてもできなくなってしまうことがあります。朝布団から出ること、お風呂に入ること、ご飯を用意すること。普段なら何気なくできるはずのことが、大きな壁のように感じられることがあるのです。
そんなとき、人はよく「できない」と口にします。しかし本当に「できない」のでしょうか。実は「できない」と「したくない」には大きな違いがあります。この二つを言葉でしっかり分けて考えることは、自分の状態を理解するうえでとても重要です。本記事では、この「したくない」と「できない」の違いをわかりやすく整理しながら、生活を立て直していくためのヒントをお伝えしていきます。

心が疲れている人にとって、一日の始まりはとてもつらいものです。目が覚めても、布団から出る気になれない。体が鉛のように重く、どうしても起き上がれない。そんな経験をされた方も多いでしょう。
同じように、「お風呂に入れない」「ご飯を作れない」という声もよく耳にします。以前は毎日のようにお風呂に入っていた人が、心の不調が強くなると入る回数が極端に減ってしまうことがあります。ひどい場合には、何か月も入れないまま過ごしてしまう方もいます。
こうした「入れない」「できない」という表現の裏には、「したくない」「気持ちがついていかない」という面が隠れていることが少なくありません。

ここで少し立ち止まって考えてみましょう。「できない」とは、本当にその行動をとる能力がない状態を指します。たとえば、足を怪我して走れない場合や、重い物をどうしても持ち上げられない場合がそうです。一方「したくない」は、能力はあるのに気持ちや意欲がついていかず、行動に移せない状態を意味します。
たとえば誰かに「お風呂に入ったら100万円差し上げます」と言われたら、ほとんどの人は入ろうとするでしょう。つまり「絶対に無理」というわけではないのです。ただ、心が疲れているときには「やりたい」という気持ちが湧かず、行動に結びつかないのです。
このように「したくない」と「できない」をごちゃ混ぜにしてしまうと、自分を責めてしまったり、「私は何もできない人間だ」と思い込んでしまう危険があります。だからこそ、言葉を分けて考えることが大切なのです。

お風呂の例を考えてみましょう。心が落ち込んでいるときには「お風呂に入りたくない」という気持ちが強くなります。その結果、入らない日が続きます。ところが逆に、お風呂に入ることで体が温まり、血流が良くなり、気分が少し整うこともあります。つまり「お風呂に入らない」は、心の不調の「結果」であると同時に「原因」にもなり得るのです。
同じように、朝布団から出ること、散歩すること、三食きちんと食べることなども、心の状態と密接につながっています。やらないことが心の落ち込みをさらに深め、やることで少しずつ持ち直していく。この「原因と結果の関係」を理解することは、生活を立て直す第一歩となります。
心の調子を整えるために専門家からよく提案されるのは、どれも「本来ならできること」です。朝日を浴びながら散歩する、三食をきちんと食べる、発酵食品やたんぱく質をとって体を整える、スマートフォンの使いすぎを控える。どれも特別なスキルが必要なわけではなく、能力的には可能なことばかりです。
しかし「できなかった」と感じるとき、それは「能力がない」わけではなく、「したくなかった」「気持ちがついていかなかった」だけなのです。ここを言葉で区別して捉えると、自分を責めすぎずにすみます。そして「今日はやらなかったけど、また気持ちが少し上がったときに挑戦できる」と前向きに考えることができます。
心が不調なときでも、毎日同じように落ち込んでいるわけではありません。少し気分がましな日、ほんのわずかだけ気持ちが軽い時間帯があるものです。そうした「小さな上向きの波」を見逃さずに活かすことが大切です。
たとえば、普段は布団から出られないけれど、今日は少し気持ちが楽だと感じたら、そのタイミングで布団を出てみる。お風呂に入る。ご飯をきちんと食べる。そうした小さな一歩を踏み出すことで、生活全体が少しずつ前に進んでいきます。
逆に、まったく気持ちが上がらないときに「無理にやりなさい」と言われても、心も体もついていきません。だからこそ、「波が少しでも上向いたときに小さな行動をする」ことが、回復への分かれ道となります。
ここで大事なのは、「本当にできないこと」と「したくないだけのこと」を見極めることです。たとえば、すぐに以前のように働くことは難しいでしょう。これは能力的にもすぐにはできないことです。ですが、三食を食べることやお風呂に入ることは、本来ならできること。意欲がわずかに戻れば可能なことなのです。
したがって、まずは「本当に無理なこと」ではなく「意欲さえあればできること」に狙いを定め、少し気分が上向いたタイミングで挑戦していく。これが生活を立て直す基本戦略になります。

「できない」と「したくない」をごちゃ混ぜにしてしまうと、人は必要以上に自分を責めてしまいます。しかし実際には、「今日はしたくなかっただけ」「気持ちがついていかなかっただけ」ということも多いのです。この二つを明確に区別して言葉にすることで、自分の状態をより客観的に理解できるようになります。
そして気分がほんの少し上向いたときに、布団から出る・お風呂に入る・ご飯を食べるといった小さな一歩を踏み出す。その積み重ねが、心を立て直す大きな力になっていきます。
「したくない」と「できない」を正しく言葉で分けて捉え、自分にできる小さなことを一つずつ積み重ねていく。これこそが、回復への確かな道しるべになるのではないでしょうか。