「買い物依存症」とは?〜その原因と治療法を考える〜
今回のテーマは「買い物依存症」についてです。近年、メディアやSNSでも耳にすることが増えたこの言葉ですが、実際にはどのような状態を指し、どういったメカニズムで発症するのか。そして、改善のためにどのような治療法があるのかについて、解説していきたいと思います。
買い物依存症とは、衝動的に繰り返し買い物をしてしまい、生活に支障をきたすような精神的な状態を指します。
たとえば、必要のないものを次々に購入してしまい、金銭的に破綻してしまうケース。また、常に「次は何を買おうか」と考えてしまい、仕事や家事、家庭生活に集中できなくなるといったケースもあります。
単なる「散財」との違いは、本人がコントロールできない衝動に突き動かされてしまっている点です。つまり、自分でも「買ってはいけない」とわかっていながらやめられず、その結果として生活が崩れていく。こういった状態を「買い物依存症」と定義します。
買い物をした際に得られる一時的な爽快感や高揚感。実はこの感覚は、脳内でドーパミンという神経伝達物質が分泌されている状態によって生まれます。ドーパミンは「快楽」や「報酬」と深く関係しており、買い物による快感が脳に「報酬」として学習されてしまうと、脳は「またその快感を得たい」と繰り返し欲するようになります。
たとえば、少し高価な洋服やバッグ、趣味の品(プラモデルなど)を購入したとき、気晴らしになることがありますよね。気分が「スカッとした」「満たされた」と感じるあの感覚こそが、ドーパミンの仕業です。
こうした脳の報酬系の学習が繰り返されることで、「またあの感覚を味わいたい」と無意識のうちに買い物を求めるようになり、やがて依存状態に陥っていくのです。
「買い物依存症」というと特殊な人の病気のように思われるかもしれませんが、実際には多くの人が何らかの形でその傾向を持っている可能性があります。
特に注意が必要なのは、以下のような方々です:
また、精神科に相談に来られる方で「買い物依存症だけ」というケースは少なく、うつ病やパニック障害、パーソナリティ障害などの疾患に併発して発症していることが多いのが実情です。
買い物依存症の治療において、最も有効とされているのが**認知行動療法(CBT)**です。
認知行動療法では、まず「衝動買いの引き金(トリガー)」となる状況や感情を探していきます。たとえば、

こうしたストレスがきっかけで「何かを買いたい!」という衝動が湧き上がるケースが多く見られます。
また、カウンセリングを通じて見えてくるのが、「これを買えば幸せになれる」という誤った信念です。ブランドバッグや高級時計など、「所有すること=幸福」と思い込んでしまっている方も少なくありません。
これらの信念を一緒に見直し、「本当にそれを買わなければ幸せになれないのか?」と問い直していくことが、治療の重要なステップとなります。
治療の一環として、**「買い物日誌」**をつけていただくことも有効です。
どんな状況で、どんな気持ちのときに、何を買ったのかを記録することで、自分の傾向やパターンが客観的に見えてきます。
また、買い物したいという衝動が湧いたときには、他の行動に置き換えるというアプローチも行います。
人によって効果的な方法は異なりますので、自分に合った代替行動を見つけていくことが大切です。
買い物依存症に対する薬物療法については、実のところ「単独での効果はあまり期待できない」とされています。

過去の研究(2000年、フルボキサミン:商品名ルボックスやデプロメール)では、偽薬(プラセボ)と比較してわずかな改善が見られたとの報告もありますが、その後の研究はあまり進んでいません。これは、医師の間でも「買い物依存症自体に薬はあまり効かない」という認識が根強いためです。
しかし、買い物依存症が他の精神疾患と合併している場合には、薬物療法が有効である可能性があります。
例:
このように、買い物依存症を単独の病気として扱うのではなく、背景にある疾患を適切に診断し、治療していくことが改善への近道となります。
買い物依存症の治療において大切なのは、「癖」を見直し、「新たな癖を作る」ことです。
これらが治療の基本となります。
そしてもし、自分自身や身近な方に「もしかして買い物依存かも?」という疑いがある場合は、一度、精神科の診察を受けてみることをおすすめします。

買い物依存症の裏には、見落とされがちな精神的な病気が隠れている可能性もあります。
早期に気づき、適切な治療を受けることが、より健やかな日常生活への第一歩になるはずです。
買い物は本来、生活を豊かにしてくれる行為のひとつです。
しかし、それが「自分を傷つける手段」となってしまっているのであれば、一度立ち止まって見直してみることも大切です。
「治らない癖」ではありません。少しずつ、自分を大切にする方法へと切り替えていきましょう。