双極性障害の有病率と身近さ
双極性障害(そうきょくせいしょうがい)は、以前「躁うつ病」と呼ばれていた精神疾患です。気分が大きく変動し、極端に高揚する「躁状態」と、深く落ち込む「うつ状態」を繰り返す特徴があります。一般的に有病率は人口の約1%とされ、統合失調症とほぼ同程度の割合です。たとえば1学年100人の小学校であれば、同級生の中に1人は双極性障害、1人は統合失調症を持つ人がいる計算になります。決して珍しい病気ではなく、私たちの身近に存在しているのです。

双極性障害において注目されやすいのは「躁状態」です。これは気分が高揚し、活動的になりすぎる状態を指します。典型的には以下のような特徴が見られます。
ただし、多くの人が経験するのは重度の躁ではなく、軽度の「軽躁状態」です。軽躁状態は一見すると「活発なだけ」「調子が良いだけ」とも思えるため、本人や周囲も病気とは気づきにくいのが実情です。
一方、うつ状態は抑うつ気分、意欲の低下、興味や喜びの喪失などを伴い、日常生活に支障をきたします。うつ病単独の有病率はおよそ10%とされ、双極性障害よりも多いことが知られています。しかし、実際には「うつ病」と診断されていても、その背景に双極性障害が隠れているケースが少なくありません。
双極性障害は一つの病態にとどまりません。実際には「双極Ⅰ型」と「双極Ⅱ型」に大別されます。
実際の患者さんは「ほとんどうつ病に見えるが、ごくたまに軽躁がある」という場合が多いのです。そのため「難治性うつ病」と診断されている人の中に、実は隠れた双極性障害が含まれているケースが少なくありません。報告によれば、重症のうつ病患者の6割程度が双極性に関連しているとも言われています。
双極性障害の治療では、気分の波を安定させることが第一の目標です。そのために用いられるのが「気分安定薬」と呼ばれる薬剤群です。代表的なものとして以下があります。
精神病症状を伴う場合には、抗精神病薬(クエチアピンやオランザピンなど)を追加することもあります。一方で、うつ症状が強い場合には抗うつ薬を使うことがありますが、双極性障害のうつにはSSRIなどが効きにくい、あるいは逆に躁転(躁状態への移行)を招くことも報告されています。そのため、薬の選択は非常に慎重に行う必要があります。

心理的支援が有効かどうかはケースによります。典型的なうつ病では「完璧主義」や「白黒思考」が背景にあり、認知行動療法などが効果を発揮することが多いです。しかし双極性障害では、必ずしも同じ枠組みが適用できるとは限りません。場合によっては他罰的な傾向が見られることもあり、治療者側の柔軟な対応が求められます。
それでも、統合失調症においても心理療法が一定の効果を持つことが明らかになっているように、双極性障害でも適切に行えばサポートになる可能性があります。
双極性障害は一般に20歳前後の若年期に発症することが多く、体質や遺伝的要因が強く関与します。一方で、うつ病の発症年齢は30歳前後が多いとされます。
家族にうつ病や双極性障害の方がいる場合や、若くして発症した場合は双極性障害を念頭に置くことが重要です。長期間「治らないうつ」に苦しんでいる人は、実は双極性障害である可能性も考えられます。

薬物療法に加えて、生活習慣の改善も欠かせません。
これらは気分の波を和らげる上で非常に効果的です。生活リズムの乱れは再発の引き金になるため、安定した生活を送ることが治療の一環となります。
双極性障害は「躁とうつの両極を行き来する病気」という単純なイメージだけでは捉えきれません。統合失調症に近いタイプから、難治性うつに限りなく近いタイプまで幅広いスペクトラムを持っています。
治療の中心は気分安定薬であり、個々の症状に応じて抗精神病薬や抗うつ薬を組み合わせます。また、生活習慣の安定や心理的サポートも欠かせません。
「なかなか治らないうつ」に悩んでいる方や、若くして発症した方の中には、双極性障害が隠れている可能性もあります。正しい理解と適切な治療があれば、双極性障害と共に安定した生活を送ることは十分可能です。