
私たちの人生には、進学・就職・結婚・離婚・引っ越し・親の死など、大小さまざまな「節目」が訪れます。こうした大きな変化の時期は、希望や期待を伴う一方で、強いストレスがかかり、メンタルの不調につながることが少なくありません。特に3月・4月は卒業や入学、就職などの節目が集中しており、心身のバランスを崩しやすいシーズンです。
今回は、人生の節目にメンタルが不安定になる主な原因を整理し、その上でどう対処していけばよいかを考えていきます。

人は、慣れ親しんだ環境にいると安心できます。しかし新しい環境に置かれると、適応するまでに心身に大きな負荷がかかります。新しい学校や職場、引っ越し先では、日常のリズムや人間関係、生活習慣が一変し、精神的な疲労が蓄積されやすくなるのです。
長期的に見れば、環境の変化は視野を広げ、人間的な成長を促す大切な経験です。しかし短期的には、強い不安や緊張を伴うため、ストレスが大きくのしかかります。
特に自閉スペクトラム症(ASD)の傾向がある方にとっては、この「変化」自体が強いストレス要因になります。朝起きたときにいつもと違う光景が広がっていたり、部屋の配置や日常のルーチンが少し変わるだけでも、不安定さを感じやすいのです。そのため環境の変化が重なる時期は、心の負担がより強くなる傾向があります。
人生の節目を迎えるとき、多くの人は「これから良くなるはず」と期待します。就職すれば働きがいを感じられるはず、進学すれば楽しい友人関係が築けるはず、離婚すれば今よりも自由になれるはず…。人は少なからず、現状の不満を「環境の変化が解決してくれるのではないか」と願うものです。
しかし実際には、環境が変わっても自分自身がすぐに変わるわけではありません。新しい環境での課題や人間関係の難しさは必ず存在し、期待通りに状況が改善しないことも少なくないのです。
たとえば、いじめに悩んでいた中学生が「学年が変われば解決するはず」と願っても、現実は必ずしもそうとは限りません。あるいは結婚生活に苦しんでいた人が、離婚後すぐにすべてが好転するわけでもありません。
環境の変化に対して大きな期待を抱いていた分、うまくいかなかったときの落胆はより大きくなり、その反動がメンタルの不調を引き起こす原因となります。
もう一つ見逃せないのが、アイデンティティの揺らぎです。アイデンティティとは「自分は何者であるか」を認識するための拠り所であり、自分を支える大切な軸です。
例えば、学生時代は友人の中心となり自信を持って過ごしていた人が、社会人になると立場が一変します。最も下の立場で叱責されることも増え、「自分は何もできない存在なのではないか」と感じてしまうことがあります。
それまで「皆に頼られる存在」であることが自己の根拠だった人にとって、その支えが失われることは大きなショックです。この「自分は無価値なのではないか」という感覚が、いわゆるアイデンティティ・クライシス(自我の危機)を引き起こし、メンタルの不安定さを増幅させます。

変化に適応できず苦しいと感じたときは、「撤退」も選択肢の一つです。休職・休学・退職などを検討することは決して逃げではなく、自分を守るための大切な判断です。特に3か月以上無理を続けると、突然メンタルが崩れることもあります。限界が来る前に、一度立ち止まる勇気を持ちましょう。
環境が変わればすぐに状況が好転する、という過度な期待は落胆につながります。最初はうまくいかなくて当然、少しずつ慣れていけばいい、と自分に言い聞かせることが大切です。「時間をかけて適応していくものだ」と心構えをしておくだけで、ストレスを和らげることができます。
どの程度まで頑張り続けてよいのか、あるいは休むべきかどうかは、本人にとって判断が難しい問題です。その際は、精神科やメンタルクリニックを受診し、専門家に客観的な判断を仰ぎましょう。
医師は業界や職場の細かい事情に精通しているわけではありませんが、患者の「疲れ具合」や「限界の度合い」を見極めることはできます。詳細な状況説明はほどほどで十分です。むしろ「今のメンタル状態が休むべき段階かどうか」を判断してもらうことが重要です。

人生の節目は、喜びと同時に大きなストレスを伴います。
この3つが重なることで、人は心のバランスを崩しやすくなります。
大切なのは、無理を続けて潰れてしまわないことです。環境の変化は長期的には成長につながりますが、短期的には大きな負担になります。どうしても苦しいと感じたら、一旦休む・やめるといった選択も必要です。そして、その判断は専門家と相談しながら行うことが望ましいでしょう。
「もう少し頑張れば…」と我慢を続けてしまう人ほど、ある日突然限界を迎えてしまうことがあります。もし1か月ほど経っても強い苦しさが続くなら、早めに専門機関を訪れ、自分の心の状態を確認してみてください。
人生の節目は誰にとっても避けられないものです。しかし、その時に自分を守りながら柔軟に対応していくことで、次の一歩を健やかに踏み出すことができるのではないでしょうか。