今回のテーマは「うつ病の自殺と双極症の可能性」についてです。非常に重い内容であり、自殺や希死念慮(死にたいという強い気持ち)に関する表現が含まれます。もし現在まさに強い希死念慮を抱えている方がいらっしゃる場合は、この文章を読み進めることが辛くなる可能性があります。その際は無理をせず、一旦読むのを止めて、少し元気が戻ってきたときに改めて目を通していただければと思います。

まず、うつ病の基本的な特徴について確認しておきましょう。うつ病とは、精神的なエネルギーが著しく低下する病気です。代表的な症状は以下の二つです。
人の気分には本来、波があります。調子の良いときもあれば、落ち込むこともあります。しかし、うつ病の方はその波が極端に低い位置で推移し、強い落ち込みが長期間続いてしまうのです。
精神エネルギーが低下する原因には、大きく二つの要素が考えられます。ひとつは脳の機能異常によるもので、脳が十分に働かず、精神的なエネルギーが枯渇してしまうケースです。もうひとつは心理的要因で、同じ出来事に対しても強いストレスを感じやすい「思考の癖」が影響している場合です。小さな出来事でも大きなダメージを受け、さらにエネルギーが低下してしまうのです。
このようにして「抑うつ気分」と「意欲の低下」が重なり、生活全般に深刻な影響を及ぼすのがうつ病です。

ここで疑問が生じます。うつ病は本来「意欲の低下」を伴う病気です。にもかかわらず、自殺という非常に大きなエネルギーを必要とする行動を、なぜ実行できてしまうのでしょうか。
自殺は決して簡単な行為ではありません。多くの場合、実行には準備や計画が伴い、また強い恐怖心を乗り越える必要があります。失敗して身体に重い後遺症を残してしまうケースも少なくありません。たとえば高所から飛び降りた場合、命を落とさずに半身麻痺や重度の障害を負ってしまうことも多いのです。それほど自殺には膨大なエネルギーが必要です。
したがって、「気持ちが沈んでいて、やる気もない」状態のはずのうつ病患者が、自殺という大きな行動を起こすことには説明の難しさがあります。
この矛盾を説明する手がかりとして考えられるのが、**双極症(躁うつ病)**です。双極症は、気分の波が極端に上下する病気で、うつ状態と躁状態を繰り返す特徴があります。
特に注意すべきは、「気持ちは沈んだままなのに、行動力だけが異常に高まる」状態です。一般的な躁状態は気分が高揚して楽しくなりますが、中には抑うつ気分を抱えたままエネルギーだけが噴き出すことがあります。この状態は極めて危険で、自殺を完遂してしまうリスクが高いのです。

自殺のリスクを高める背景には、いくつかの要因があります。
もし双極症の可能性がある場合、治療方針はうつ病とは異なります。抗うつ薬の単独使用は、かえって躁転(気分の異常な高揚)を引き起こし、自殺リスクを高める可能性があるため注意が必要です。
治療の中心となるのは気分安定薬です。これは気分の波を抑える薬で、過度に気分が高揚することも、深く落ち込むことも防ぎます。脳の電気的な活動を穏やかにし、安定した状態を保つ働きを持ちます。必要に応じて抗精神病薬を併用し、ドーパミンの過剰な働きを抑えることもあります。
特に、自殺未遂の既往がある方や抗うつ薬で躁転を経験した方は、双極症に準じた治療が重要です。

うつ病と自殺の関係を考える際、双極症の存在を見逃してはいけません。
自殺という悲しい結末を防ぐためには、診断の見極めと適切な治療が欠かせません。もし「うつ病と診断されたが、過去に自殺未遂をしたことがある」「抗うつ薬を飲んでいて気分は上がらないのに行動力だけ出てきた」といった場合は、ぜひ主治医に相談し、双極症の可能性について検討することをおすすめします。