田舎で医師不足が生じる理由を考察しました。

高齢化と医療需要の急増

高齢化と医療需要の急増

日本は世界でもっとも高齢化が進んだ国であり、2023年には65歳以上が人口の約3割を占めています。特に地方や農村部では高齢化率が都市部を上回る傾向があり、生活習慣病や慢性疾患、介護を必要とする高齢者が増え続けています。その結果、地域の診療所や病院には日々多くの患者が押し寄せ、医師に求められる負担が増大しています。しかし、医療需要の高まりに対して十分な医師が確保できず、結果として「医師不足」という深刻な問題が顕在化しているのです。

具体例として、秋田県や高知県など高齢化率が全国平均を大きく上回る地域では、患者数の増加に対応できずに診療科の縮小や病院の休止が相次いでいます。特に農村部では、唯一の病院が閉鎖されると数十キロ先まで患者が通院しなければならず、命に直結する深刻な事態を招いています。

都市部への医師集中と地域格差

都市部への医師集中と地域格差

日本の医師数は人口1000人あたり約2.5人と国際的に見ても標準的ですが、その配置には大きな地域差があります。東京や大阪などの大都市には大学病院や高度医療機関が集中し、研修やキャリア形成を求める若手医師が集まります。一方、農村や離島のような地域は、医師を惹きつける要素が少なく、十分な人材を確保できません。こうした「都市と地方の医師偏在」は、医師不足問題の核心的な要因であり、患者が必要な医療を受けられない「医療空白地帯」を生み出しています。

具体例として、新潟県の佐渡島では医師不足が深刻で、かつて複数の診療科が揃っていた病院でも医師が減少し、産婦人科や小児科が閉鎖に追い込まれています。そのため島外に出産や小児の専門診療を求める患者が増え、移動の負担が地域住民の大きな悩みとなっています。

労働環境の厳しさと若手医師の敬遠

労働環境の厳しさと若手医師の敬遠

地方の医療現場では、医師が少ないため一人ひとりにかかる負担が非常に大きくなります。救急対応から外来、入院管理まで幅広い診療を担わざるを得ず、長時間労働が常態化しています。加えて、夜間や休日も当直や呼び出しが多く、ワークライフバランスを重視する若手医師にとって魅力的とは言い難い環境です。都市部では専門を絞り込みつつ研究や教育の機会を得られる一方、田舎では「何でも診る」総合医としての働き方が求められるため、キャリア形成上の不安が医師を遠ざける要因となっています。

例えば、北海道の広大な農村地域では、数名の医師が数万人規模の住民をカバーしなければならず、日常的に過重労働に直面しています。このような状況では、専門性を磨きたい医師や家庭との両立を望む医師が定着しづらくなるのは当然といえるでしょう。

子どもの教育問題と家庭の事情

子どもの教育問題と家庭の事情

医師が田舎に住みたがらない理由として、しばしば挙げられるのが「子どもの教育」です。都心部には有名な進学塾や中高一貫校が充実しており、子どもを受験競争の環境に置きたいと考える親にとって安心感があります。一方で、地方では教育機会が限られており、特に「中間層の学力」の子どもが十分に伸びる環境が少ないと感じる親も多いのです。30代や40代といった働き盛りの医師世代にとって、子どもの教育環境は生活拠点を選ぶうえで非常に大きな要素であり、この事情が地方勤務を敬遠する心理的ハードルになっています。

具体例として、佐渡島や奄美群島などでは優秀な高校が存在する一方、塾や私立中高一貫校の数は限られています。結果として、子どもの教育に力を入れたい医師家庭では、教育機会が豊富な都市部に留まる選択をするケースが多いのです。これは収入や生活コストといった経済的な要素以上に、家庭の意思決定に強く影響する要因となっています。

まとめ

田舎で医師不足が起こる理由は、一言でいえば「医療需要の増加と供給の偏在が同時進行している」ことにあります。

高齢化による患者数の増大、都市部に集中する医師配置、過酷な労働環境、そして子どもの教育をめぐる家庭事情が複雑に絡み合い、医師不足を深刻化させているのです。秋田県や新潟県佐渡島のような具体例に見るように、現場の問題は住民の暮らしに直結しています。

解決には、医師の地域配置を是正する制度設計や働き方改革に加え、地方における教育環境の充実といった多面的なアプローチが不可欠でしょう。