「愛着障害」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。少し難しく聞こえるかもしれませんが、これは「親や身近な大人から十分な愛情や安心感を受け取れなかったことによって、人との関わり方に影響が出る状態」のことを指します。
人間は誰しも、赤ちゃんの頃から「安心できる大人」との関わりを通して、他人との距離感や信頼感を学んでいきます。しかしその基盤がうまく育たないと、心のどこかに空虚感が残り、人間関係で極端に距離を詰めすぎたり、逆に距離をとりすぎたりといった特徴が出てくるのです。
本記事では、愛着障害がどのように生まれ、どんな形で現れるのか、そしてどのように向き合っていけばよいのかを、できるだけわかりやすく解説していきたいと思います。

愛着障害は「親や養育者との関わり」によって影響を受けることが多いと考えられています。いくつか典型的な状況を挙げてみましょう。
「ネグレクト」とは、親が子どもに必要な世話を怠ることを指します。たとえば毎日の食事を用意しない、清潔な服を着せない、学校に通わせない、そういった行為です。
また「搾取」とは、子どもを本来担うべきでない役割に追い込むことです。お手伝い程度なら良いですが、親代わりに小さな弟や妹の面倒を全面的に押しつけたり、生活のために過度に働かせたりするのは搾取になります。
親が離婚や再婚を繰り返すなどで身近な大人が次々と変わってしまうと、子どもは「安心できる存在」がなかなか定まりません。特に母親や父親が新しいパートナーにかかりきりになり、子どもに安定した愛情を注げない場合、心の基盤が揺らいでしまいます。
孤児院などで大人数の子どもに対して少数の大人しかいない環境では、どうしても一人ひとりが受け取れる愛情が限られてしまいます。仲間との絆は強くなりますが、「自分だけに注がれる無条件の愛情」を十分に体験できないことがあります。
こうした状況の中で育つと、子どもは「人との適切な距離感」や「安心できる愛情」を体感しにくくなり、それが成長後の人間関係に影響するのです。

愛着障害は大人になっても、さまざまな形で表れることがあります。代表的なパターンを見てみましょう。
知らない大人に声をかけられても警戒せずついて行ってしまったり、初対面の人に過剰に馴れ馴れしく接してしまうことがあります。これは「安心できる関係」を経験してこなかったために、距離の取り方を誤ってしまうのです。
職場や友人関係でも、親しさのバランスがわからず「急に距離を縮めてしまう」ことがあります。その結果、相手から「重い」「鬱陶しい」と思われ、傷つくことも少なくありません。
逆に、人との距離が近づくのを極端に避けてしまう場合もあります。誰かと一緒にいても感情をあまり表に出さず、「何を考えているかわからない」と思われることがあります。本当は嬉しいのに笑顔を見せられなかったり、悲しくても感情を押し殺してしまうのです。
どちらのタイプにせよ、心の奥底では「本当に信じられる人とゼロ距離でつながりたい」という気持ちが強くあります。けれどもそれが叶わず、常に満たされない感覚を抱えているのが特徴です。
愛着障害そのものは病気ではありませんが、人との関わりがうまくいかないことから、さまざまな心の問題につながることがあります。
つまり、愛着障害は「他の心の問題の土台」となりやすいのです。

では、愛着障害を持つ人がどうすれば回復に向かうのでしょうか。薬だけで解決するものではなく、人との関わりを通して少しずつ学んでいくことが大切です。
まず「自分は人との距離感がわかりにくい」「満たされない感覚を抱えている」ということを自覚することが大切です。自分を理解することで、対策を考える一歩が始まります。
学校や職場で距離感を誤り、嫌われてしまうことがあります。そうした時に、スクールカウンセラーや信頼できる大人から「こう接するといいよ」と具体的に教えてもらうと、人との距離の取り方を学ぶことができます。これは一種の「練習」でもあります。
自分ではうまく距離感がつかめなくても、ドラマや小説の中の人物、あるいは身近な人の中に「こんな人間関係の作り方をしたい」と思える人物がいるはずです。その人をお手本にして、「この人ならどう振る舞うだろう」と考えながら実際に行動してみることで、自分の中に新しいパターンを取り入れることができます。

愛着障害とは、幼いころに「安心できる愛情」を十分に受け取れなかった経験から、人との距離感に悩みやすくなる状態を指します。距離を詰めすぎたり、逆にとりすぎたりしながらも、心の奥では「本当に信頼できる関係」を求めているのです。
人は誰しも成長の過程で何らかの傷や不足を抱えています。大切なのは、それを「なかったこと」にするのではなく、「自分にはこういう傾向があるんだ」と理解し、工夫しながら人と関わっていくことです。
信頼できる人に相談したり、身近なロールモデルを見つけたりすることで、人との距離感は少しずつ調整できるようになります。愛着障害は決して克服不可能なものではなく、「自分を理解すること」「人から学ぶこと」によって回復していけるのです。