皆さんは「学歴マウント」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは、自分の学歴を持ち出して相手より優位に立とうとする態度や言動を指します。例えば、自己紹介の場で「私は○○大学出身です」と伝えると、相手が「ああ、そうなんですね。私は△△大学なんですよ」と返してくる。そこには「自分の方がすごいだろう」という空気が漂っていることがあります。さらに、高卒や専門学校卒で社会に出た人に対して、「へぇ、大学には行かなかったんだ。どうして?」と問い詰めるように言うケースもあります。こうした場面が、学歴を利用したマウント取りだと感じる人は少なくありません。
精神科外来に来られる方の中にも、この「学歴マウント」に強くこだわったり、逆にそれに苦しんでしまう方が少なからずいらっしゃいます。特に統合失調症は20歳前後で発症することが多く、ちょうど大学進学や就職の時期と重なります。大学に合格して順調に歩み始めた矢先に発症し、思い描いていた人生が大きく変わってしまう。その結果、「せっかくいい大学に入ったのに」「自分の人生は発症するまでは良かったのに」と、過去の学歴に強く執着してしまうことがあるのです。

人間は、自分の人生を振り返るとき、特に大きな出来事を境に「その前は良かった」と美化する傾向があります。精神疾患を発症する前の人生を「輝いていた」と記憶し、その後の困難を「暗黒期」と捉えてしまう。たとえ発症前の人生が必ずしも順風満帆でなかったとしても、「あの頃は良かった」と思い込んでしまうのです。そして、その「良かった頃」の象徴が学歴として残りやすいのだと思います。
例えば、飲み会や初対面の場で「大学はどこでしたか?」と尋ねられることがあります。私自身も答える機会がありますが、相手によっては「まあまあの大学ですね」と評価めいた反応をされることもあります。しかし、今の私にとって、学歴の重みはほとんどありません。というのも、私は医師として20年以上働いてきました。18歳のときに必死に受験勉強をしたことは確かに誇りですが、その後の20年間、医師として患者さんと向き合い続けた経験の方が、自分にとってははるかに大きな意味を持つのです。

同年代で会話をすると、いまだに学歴を語る人に出会うことがあります。そのとき私は「この方の人生のピークは20歳前後だったのかな」と感じることがあります。もちろん、大学受験を頑張ったことは素晴らしいことです。しかし、その後の人生を充実させている人は、学歴にしがみつかない傾向があるように思います。
精神疾患を経験された方の中にも同じ構図があります。20歳前後で発症した方が「もし病気にならなければ、もっと良い人生を送れたのに」と語る姿を、私は外来で何度も見てきました。しかし、本当に大切なのは「今が自分のピークだ」と思えるように生きることです。過去の栄光に縛られてしまうと、前に進む力が失われてしまいます。

学歴の話をするとき、私はよく「甲子園」に例えます。たとえば「高校時代、野球部で甲子園に出場した」と聞くと、多くの人が「すごい!」と驚きます。しかし、それは今の仕事に直接関係するわけではありません。過去の頑張りとして尊敬に値しますが、いつまでもそれを自慢し続けると「またその話か」と退屈に感じられてしまうでしょう。
学歴も同じです。「私は東大出身です」と言われれば「すごい」と感じます。しかし、現在の人柄や仕事ぶり、努力が伴わなければ、その学歴は過去の肩書きに過ぎません。過去に誇りを持つことは良いことですが、それに縛られて現在を生きていない人は、どうしても魅力的には映らないものです。
大学進学は確かに一つの努力の結果であり、若い頃に頑張った証です。しかし、大学で学んだ内容をそのまま仕事に活かしている人は限られています。専門職である医師や研究者などは別ですが、多くの人は大学で得た知識を直接使うわけではありません。それでも大学受験を通じて培った努力や集中力は、人生の土台として活きているはずです。
だからこそ、「学歴そのもの」よりも「そこでどれだけ努力したか」「その後の人生で何を積み重ねてきたか」が大切なのだと思います。

私が診療で大切にしているのは、患者さんが「今がピークだ」と思えるように支援することです。精神疾患を抱えることは、大きなハンディを背負うことでもあります。しかし、それでも今の自分を大切にし、今こそが人生の頑張りどころだと感じられるように生きていただきたいのです。
過去の学歴や栄光は、人生の一部として誇りに思って良いものです。ただし、それにしがみつくのではなく、あくまで「昔の頑張り」として胸にしまいながら、今を大切にする。その姿勢が、人生を豊かにし、人をより魅力的にするのだと思います。
学歴マウントを取る人は少なくありません。しかし、その背景には「自分のピークはもう過ぎてしまった」という思いが隠れていることがあります。大切なのは、過去の栄光ではなく「今この瞬間」をどう生きるかです。学歴は一時の努力の証であり、その後の人生を支える一要素にすぎません。
人生を歩むうえで大切なのは、「今が自分のピークである」と思えるように日々を積み重ねること。精神疾患を抱えている方も、そうでない方も、過去のマウントに囚われることなく、今この瞬間を大切にして生きていっていただきたいと思います。