抜毛症について

抜毛症について

【心の病気と向き合う】抜毛症とは?その原因・症状・治療法について精神科医がわかりやすく解説

こんにちは。
本日は少し珍しい精神疾患、「抜毛症(ばつもうしょう)」について、一緒に学んでいきましょう。

この疾患はあまり知られていませんが、決して珍しいものではなく、私たちの身近にある心の問題の一つです。「髪の毛を抜いてしまう癖が止められない」「気がついたら眉毛がなくなっていた」――そんな悩みを抱える方は、実は一定数いらっしゃいます。

この記事では、抜毛症の症状、原因、日常的な対処法、そして医学的な治療について、精神科医の視点からわかりやすくご紹介します。

抜毛症とは?〜髪を抜かずにいられない病〜

抜毛症とは?〜髪を抜かずにいられない病〜

抜毛症(トリコチロマニア:Trichotillomania)」は、自分の髪の毛や体毛を繰り返し抜いてしまい、抜かずにはいられない衝動に駆られる精神疾患です。

この病気は、世界的には人口の約**1〜2%**にみられると言われています。
つまり、100人に1〜2人。学校の1学年に1人くらいの割合で存在している可能性がある、決して稀ではない疾患です。

どの部位を抜くのか?

抜毛症の方が抜いてしまう体毛には、次のような部位があります。

  • 頭髪(約75%)
  • 眉毛
  • まつ毛
  • 陰毛

特に頭の髪の毛を抜く方が多く、地肌が見えてしまったり、円形脱毛のようなハゲができたりすることで、日常生活に支障をきたすケースが多く見られます。

一方で、眉毛や陰毛など目立ちにくい場所を抜く方もいます。こうした部位は、抜いてもすぐに他人に気づかれにくいこともあり、より深刻化しやすいこともあります。

髪を「食べてしまう」ケースも

中には、抜いた髪の毛を食べてしまう方もいます。これは「食毛症(しょくもうしょう/Trichophagia)」と呼ばれます。

髪の毛はタンパク質でできており、消化されにくいため、体内で石のように固まり(毛石=トリコベゾアール)腸閉塞などの原因になります。

このような状態が進行すると、医療的な介入(手術など)が必要になることもあり、「ラプンツェル症候群」という名前で知られています。

※ディズニーのキャラクター「ラプンツェル」は髪が長いだけで、髪を食べるわけではありませんが、その比喩的な表現として用いられています。

抜毛症の原因は?ストレスとの関係

抜毛症の原因は?ストレスとの関係

では、なぜ髪を抜いてしまうのでしょうか?

一つの大きな要因は、「ストレス」です。

抜毛症は、ストレスや緊張、不安などを感じたときに、それを和らげようとして自分の体を刺激する行動として現れます。これは、よく知られている「貧乏ゆすり」「爪かみ」などと同じく、**自己刺激行動(Self-Stimulatory Behavior)**の一つです。

髪を1本ずつ抜くという行為は、細かくて集中を要する作業であり、それが一種のストレス解消の手段になってしまっているのです。

自分では止められない「クセ」

抜毛症の大きな特徴は、「自分でもやめたいのに止められない」という点です。

気づいたら抜いてしまっている。やめようと思っても、無意識のうちに手が髪に伸びている。これは、単なるクセとは異なり、脳の制御機能が乱れている状態と考えられています。

そのため、「意志が弱い」「怠けている」といった周囲の偏見はまったくの誤解です。
本人にとっても非常につらく、苦しい状況なのです。

軽度の場合の対処法

帽子をかぶる

頭髪を抜いてしまう人にとっては、髪にアクセスしにくくなることで衝動を抑える効果があります。
また、帽子を脱ぐ・ズラすという行動が「めんどくさい」と感じることで、衝動を妨げることにもつながります。

両手をふさぐ

髪を抜くためには手が必要です。そのため、次のような方法で物理的に手を使えない状況を作るのが効果的です。

  • 腕を組む
  • 手を後ろで組む
  • 両手に荷物を持つ
  • 手を膝の下に挟む

日常の中で無理なく取り入れられる工夫を考えてみましょう。

それでも止められない場合は?

ここまで紹介した方法でも症状が改善されない場合、医学的な治療を検討する必要があります。

抜毛症は強迫性障害に似ている?

一見、抜毛症は「抜きたくないのに抜いてしまう」という点で、**強迫性障害(OCD)**に似ています。
そのため、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が効果を持つのではないかと考えられてきました。

SSRIは効果が限定的

しかし、近年の研究では、SSRIは抜毛症にはあまり効果がないとされています。

つまり、強迫性障害と似たような症状を示すものの、脳のメカニズムが異なる可能性があるということです。

抜毛症に有効な薬は?

一方で、以下のような**抗精神病薬(非定型抗精神病薬)**が一定の効果を示すことがわかってきています。

  • オランザピン(商品名:ジプレキサ)
  • クエチアピン(商品名:セロクエル)

これらの薬は、もともと統合失調症や双極性障害の治療に使われるもので、衝動性や妄想的思考の抑制に効果があるとされています。

なぜこれらの薬が抜毛症に効くのかは、完全には解明されていませんが、一部の患者さんでは「髪を抜くことで体の悪いものを出している」というような妄想的な信念を持っていることもあり、そこに作用している可能性も考えられています。

抜毛症は「甘え」ではない

抜毛症は「甘え」ではない

最後に一つ大事なことをお伝えします。

抜毛症は決して「甘え」や「怠け」ではありません。
自分の意志だけではどうにもできない、れっきとした精神疾患です。

「自分でなんとかしよう」と抱え込みすぎず、辛いときはぜひ精神科や心療内科に相談してください。

終わりに:毎日19時、あなたに寄り添いたい

この記事をここまで読んでくださったあなたへ。

私たちは、精神科医として、心がつらいときに少しでも寄り添える存在でありたいと考えています。

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