ASD(自閉スペクトラム症)について

ASD(自閉スペクトラム症)について

自閉スペクトラム症(ASD)をやさしく理解する
 ― 特性とつき合い方 ―

最近、テレビやネットでも「発達障害」という言葉を耳にする機会が増えました。その中でもよく出てくるのが 自閉スペクトラム症(ASD) です。
「スペクトラム」というのは、色がグラデーションになっているように、状態に濃淡や幅があることを意味します。つまり、ASDは「あるかないか」とはっきり分けられるものではなく、「少しその傾向がある人」から「生活に大きな支障が出る人」まで幅広く存在するのです。

たとえば肺がんのような病気は「ある」か「ない」かの二択ですが、ASDはそうではありません。知的障害も同じで、軽度から重度までさまざまな段階があり、境目にいる人は「グレーゾーン」と呼ばれることもあります。つまり、人によって現れ方が違うからこそ「スペクトラム」という言葉が使われているのです。

自閉スペクトラム症の代表的な特徴

自閉スペクトラム症の代表的な特徴

ASDにはいくつかの特徴がありますが、ここでは特に分かりやすい三つをご紹介します。もちろんすべての人に当てはまるわけではなく、「こういう傾向がある人が多い」という理解が大切です。

① 空気を読むのが苦手

ASDの方は、人との会話で「言葉の裏にある意味」をくみ取るのが苦手なことがあります。
例えば、誰かが「いい薬があります」と言ったとき、普通なら相手の雰囲気や状況から「健康食品のことだろう」とか「怪しい薬かも」と想像しますよね。けれどASDの方は、言葉そのままに受け取ってしまうことが多いのです。

分かりやすいのがデートの誘いです。「その日は都合が悪いから、また今度ね」と言われたとき、多くの人は「これは遠回しに断られているのかな」と感じ取ります。でもASDの方は「今度っていつ?」「じゃあ予定を決めよう」とストレートに考えてしまうのです。これがいわゆる「空気が読めない」と言われる理由です。
ただし、これは必ずしも悪いことではありません。周りの雰囲気に流されず、率直に行動できるのは大きな強みでもあります。ビジネスの場面などでは、その行動力がむしろプラスに働くこともあるのです。

感覚がとても敏感

ASDの人は「感覚過敏」と呼ばれる特徴を持つことがあります。音やにおい、光などが人よりも強く感じられるのです。
例えば、遠くを走る車の音が気になって眠れなかったり、洗剤や香水のにおいで体調が悪くなったりすることがあります。周りの人にとっては気にならないことでも、本人にとっては大きなストレスになります。

まれに、この敏感さが才能につながることもあります。音楽家がわずかな音の違いを聞き分けられるのは、その一例です。ただ、多くの場合は生活のしづらさにつながるため、工夫が必要です。
おすすめの対策としては、ノイズキャンセリングイヤホン を使うこと。雑音を減らして過ごしやすい環境を作ることで、日常生活がぐっと楽になります。

ルーティーンを大切にする

ASDの方は「いつも同じ手順でやらないと落ち着かない」と感じることがあります。たとえば、「朝起きたら必ず歯を磨く」「この枕じゃないと眠れない」といった具合です。

一見すると不便に思えるかもしれませんが、この特性は良い方向に働くこともあります。
たとえば受験勉強をするとき、「朝ご飯を食べたら3時間勉強、昼食後も3時間勉強、夜も3時間勉強」とルーティーンを決め、それを毎日守り抜けるのです。普通の人なら「今日は疲れたからやめようかな」と思うところでも、ASDの人は一度決めた手順を続ける力があります。医師や研究者にASD傾向の人が多いと言われるのは、この「継続力」のおかげかもしれません。

ただし、ルーティーンが崩れると強い不安を感じることもあります。周囲の人はできるだけその習慣を尊重し、安心できる環境を整えることが大切です。

ASDの人と関わるときの工夫

ASDの人と関わるときの工夫

ASDの方と接するときに大事なのは、できるだけ はっきりと伝えること です。
日本人は「本音と建前」を使い分ける文化がありますが、ASDの方にとっては曖昧な言葉が一番困ることがあります。「また今度ね」という表現より、「今回はごめんなさい」とストレートに伝えたほうが理解しやすいのです。

また、本人にとっても「経験から学ぶ」ことが役立ちます。たとえば「また今度ね」と言われたら「これは断りのサイン」と覚えておく、といった具合です。こうした「パターン認識」を積み重ねることで、少しずつ状況を理解しやすくなります。カウンセラーや支援者がサポートしたり、最近ではAIを活用して学んだりする方法も増えてきています。

ASDは「グラデーション」

ASDは「グラデーション」

自閉スペクトラム症は、「ある」「ない」で分けられるものではなく、軽い人から重い人までさまざまです。
知的障害にもIQの数値によって段階があるように、ASDも「少し空気が読めない」程度から「生活に大きな困難を感じる」レベルまで幅広く存在します。だからこそ、「この人はこういうタイプだ」と一方的に決めつけるのではなく、その人なりの特性を理解し、支えていくことが大切です。

おわりに

おわりに

自閉スペクトラム症は、生活の中で不便を感じることもありますが、同時に長所や強みにもなり得ます。大事なのは、本人が安心して暮らせる工夫をし、周りの人が理解を深めることです。

社会全体がASDを「個性のひとつ」として受け入れていくことで、誰もが自分らしく生きられる環境に近づいていくのではないでしょうか。