「私の病気は親のせいなのか」――精神的な課題に直面している人の中には、この問いを繰り返し自分に投げかけてしまう方が少なくありません。親子関係は人の成長や性格、そして病気の発症に大きな影響を与えます。その影響の大きさを理解することはとても大切ですが、同時に「親のせいだから仕方がない」と思考を止めてしまうことは、人生を前に進めるうえで大きな妨げにもなります。
ここでは、「親の影響」と「自分の人生」をどう整理していけばよいのかを考えてみたいと思います。

医学的に見ても、人が病気になる背景は「体質」と「環境」が大きく関係します。ざっくり言えば体質が5割、環境が5割と言われます。体質は遺伝的な要因を強く反映しますから、親から受け継いだ部分が大きいのは事実です。そして環境においても、特に幼少期は親の存在が圧倒的です。
人間の脳は25歳前後まで発達を続けますが、その基盤となる人格形成は小学生くらいまでに大きく影響を受けます。小学生までは親の影響がほとんど100%に近く、中高生になるにつれて次第に友人関係や社会との関わりが親の影響を相対的に減らしていくのが通常の発達です。しかし、大人になっても親との距離が近すぎ、影響が半分以上を占めてしまう人もいます。
「子どもは親から巣立つもの」とよく言われます。確かに、子どもは親の知らない世界を切り開き、自分の人生を生きていくことが望ましいでしょう。しかし、現代は多様性の時代です。親とずっと一緒に暮らし、子どもとしての自分のまま人生を送る人もいて、それ自体が必ずしも「不健全」だとは言えません。
問題は「親との関係性が狭く閉じてしまうこと」です。クローズな関係にとらわれていると、息苦しさが募り、ストレスが増していきます。人間関係が閉鎖空間になると衝突も増え、親子喧嘩や相互依存が強まることもあります。
また、親自身も加齢とともに体力が衰え、友人関係が減り、子どもに強く執着するようになることがあります。子どもも「親を見捨ててはいけない」という罪悪感に縛られ、離れようとしても離れられなくなる。この関係性は「共依存」と呼ばれ、心の不調を生む大きな要因となります。

精神科に通う方の中には「親のせいで自分の人生はこんなに酷くなった」と恨み節を語る方がいます。確かに「子は親を選べない」のですから、不満や怒りを抱くのは自然な感情です。「親ガチャ」という言葉が広まるのも、それだけ多くの人が親からの影響を強く意識している証拠でしょう。
しかし、親を責め続けることは、自分の人生を「親の延長線上」に縛りつけてしまうことにもなります。親のせいにすることは一時的に楽かもしれませんが、その先に「自分の人生をどう生きるか」という視点が欠けてしまうのです。
大切なのは「親の影響を理解すること」と「そこからどう生きていくかを選び取ること」の両立です。原因を探ること自体は重要ですが、それにとどまってしまうと人生が前に進まなくなります。

では、どうすれば「親のせい」に縛られずに生きられるのでしょうか。いくつかの視点をご紹介します。

精神的に苦しいとき、人はつい原因を外に求めがちです。しかし、どんなに親の影響が大きくても、これからどう生きていくかを決められるのは「あなた自身」しかいません。
毎日をきちんと生きて、ご飯を食べ、人に迷惑をかけずに過ごせているなら、それだけでも十分尊いことです。生産性が高いか低いかで人生の価値は決まりません。大切なのは「自分の人生を、自分目線で生きること」です。
親のせいにすることは、ある段階では必要なプロセスかもしれません。しかし、その先に「じゃあ、自分はどう生きたいのか」を考えていくことこそが、本当の意味での人生の始まりなのです。