「良い上司とはどのような人なのか」。これは多くの人が一度は考えたことのある問いではないでしょうか。人を任される立場になったとき、部下の成長や勤務条件をある程度決定していく責任を負うことになります。その立場に立ったときに、どのような心構えを持ち、どのように部下と接していくべきかを考えることは、管理職やリーダーにとって非常に重要なテーマです。
この記事では、「恩師・恩人」という存在に触れつつ、上司という立場にある人がどのような姿勢を取るべきかを考察していきます。

皆さんには「恩師」や「恩人」と呼べる人がいるでしょうか。人生を振り返ったときに、「あの人のおかげで今の自分がある」と断言できる人がいる方もいれば、そうした存在が特には思い浮かばない方もいるでしょう。
私自身の経験を振り返ると、「この人のおかげで人生が大きく変わった」とまで言える人はいません。もちろん、人生の中でお世話になった人、助けてもらった人は数多くいます。しかし「恩師」「恩人」とまで呼べるほどの影響を受けた相手は、特に思い当たらないのです。
一方で、世の中には「私には恩師がいる」「この人こそ恩人だ」と心から慕う人も多くいます。そうした人々にとって、恩師や恩人はとても大切な存在です。良く言えば「大切にされている人」、悪く言えば「精神的に依存している人」とも表現できるかもしれません。彼らは「その人がいたからこそ今の自分がある」と信じ、自らのアイデンティティの一部をその人物に重ねているのです。
しかし、すべての人がそうではありません。むしろ「自分自身の存在意義や価値は、他人には委ねない」と考える人も少なくありません。つまり、「恩人」や「恩師」を必要とするかどうかは、人それぞれの価値観や人生観に大きく左右されるのです。
では、人はどの程度「他人の影響」で変わるのでしょうか。多くの人は「先生のおかげで」「上司に導かれて」と語りますが、実際には人間はそれほど他人の言葉で大きく変化するものではありません。
「あなたの言葉で人生が変わりました」と言われると、言われた側は誇らしく感じるかもしれません。しかし実際には、その人自身が元々持っていた方向性やタイミングが重なり合い、たまたま近くにいた人が「恩師」と呼ばれる存在になっただけ、ということも多いのです。
つまり「その人がいたから自分はこの道を歩んだ」というよりは、「自分が歩んだ道の近くに、その人が偶然いた」。その結果として、その人物が「恩師」や「恩人」と呼ばれるに過ぎないのです。

では、自分自身が「上司」という立場に立ったとき、どのように考えれば良いのでしょうか。
まず大切なのは、「自分が部下の人生に大きな影響を与える存在になる」と過剰に思い込まないことです。部下は自分自身の人生を歩んでおり、どの道を進むかは本人の選択です。上司はその道の途中で一時的に伴走する存在に過ぎません。
もし部下が自分の歩みたい道と、上司である自分の立場や方向性が一致していれば、その部下にとって自分は「良い上司」と映るでしょう。逆に、部下の望む道と自分の方向性が食い違っていれば、「イマイチな上司」と見られてしまうかもしれません。つまり、部下から感謝されるかどうかは、ある程度「相性」で決まってしまうのです。

では、上司は部下に対してどのように接すべきでしょうか。
まず強調したいのは、「放置は絶対にNG」ということです。部下の成長や状況を無関心に放置してしまえば、それは上司としての責任を放棄していることになります。
大切なのは、「親身になって考えている」という姿勢を部下に示すことです。必ずしも、実際にすべてを深く考え抜かなければならないわけではありません。「この人は自分のことを気にかけてくれている」「ちゃんと向き合ってくれている」と部下に感じさせることが重要なのです。
なぜなら、部下の人生の方向性は結局のところ部下自身が選び取るものだからです。上司がいくら「こうすれば良い」と考えても、その通りに進むかどうかは本人の意思に委ねられています。であれば、「部下の未来を決める」という意識を持つよりも、「部下に寄り添い、考えてくれている姿勢を見せる」ことが、結果的に信頼される上司像につながるのです。

「良い上司」とは、部下を正しい道に導く絶対的な存在ではありません。むしろ、部下が自分の人生を歩む中で一時的に伴走し、必要なときに支えになってくれる存在です。
そのために必要なのは、部下を放置せず、親身に向き合っていることを示す姿勢です。部下の人生を左右するのは本人自身であることを理解したうえで、「この人は自分のことを考えてくれている」と思わせる態度を持つことが、良い上司への第一歩となるでしょう。
恩師や恩人と呼ばれる存在もまた同じです。必ずしも人生を大きく変えるような劇的な存在ではなく、自分が歩んだ道の傍らにいた「そのときの伴走者」に過ぎないのかもしれません。上司という立場に立ったとき、過剰な責任感を背負うのではなく、自然体で部下に寄り添える姿勢を心がけることが、結果的に「良い上司」として慕われることにつながるのです。