重症、難治症パニック障害について

重症、難治症パニック障害について

パニック障害の難治例について考える

はじめに

今回は「パニック障害の難治例」について考えてみたいと思います。難治例、あるいは重症例とも呼ばれるケースについてです。パニック障害は、比較的若年層に発症することが多い疾患であり、多くの方が苦しむ一方で、適切な治療や生活上の工夫によって改善する場合も少なくありません。しかし、中には長期間にわたり症状が続き、生活に大きな支障をきたす方もいます。今回は、パニック障害という病気の基本から始め、重症化・難治化した場合にどのような経過をたどるのか、そして治療や支援のあり方について整理してみたいと思います。

パニック障害とは何か

パニック障害とは何か

パニック障害とは、明確な基礎疾患がないにもかかわらず「パニック発作」を繰り返す病気です。

パニック発作とは

パニック発作とは

パニック発作とは、突発的に生じる強烈な不安発作を指します。代表的な症状には以下があります。

・強い動悸

・息苦しさ、過呼吸

・めまい、ふらつき

・発汗

・「死んでしまうのではないか」という強い恐怖感

発作が起きている本人にとっては、まさに「死ぬかもしれない」と感じるほどの強烈な体験です。第三者から見ると命にかかわるものではなくても、ご本人の苦痛は極めて大きいという特徴があります。

他の病気に伴うパニック発作との違い

統合失調症やうつ病など、他の精神疾患の症状としてパニック発作が出ることもあります。しかし、そうした基礎疾患が存在しないにもかかわらず繰り返し発作が生じる場合を「パニック障害」と呼びます。

発症年齢の特徴

パニック障害は10代から30代にかけて発症することが多いとされています。60歳を超えて初めてパニック発作を経験した場合、単純にパニック障害と診断するのではなく、老年期うつ病や脳血管障害などの身体的疾患を疑い、慎重な検査が必要です。

発作のつらさと病気としての重症度

パニック発作そのものは非常に強烈で、患者さんが感じるつらさは最大級といえます。しかし医学的に見ると、発作によって直接命を落としたり、後遺症が残ったりすることはありません。

このため「本人が感じる主観的な重症度は極めて高いが、医学的には比較的軽症の病気」と位置づけられることが多いのです。これはうつ病の希死念慮(死にたい気持ち)と比べても、発作中のつらさはしばしばそれを上回ると表現されるほどです。

難治例・重症例とは何か

では「難治例」とはどのような状態を指すのでしょうか。

予期不安の持続

予期不安の持続

パニック障害の大きな特徴の一つが「予期不安」です。「また発作が起きるのではないか」と常に不安を抱えて生活する状態を指します。この不安が長期にわたって続くと、精神的エネルギーが消耗し、気分の落ち込みや意欲の低下につながります。

うつ病への移行

予期不安が続き、生活全体が暗い気持ちに覆われると、次のような症状が現れてきます。

・抑うつ気分

・意欲低下

・不眠あるいは過眠

・「こんな人生は嫌だ」という希死念慮

これらはうつ病の診断基準を満たす症状群です。したがって、長期にわたるパニック障害はうつ病へと移行するケースが少なくありません。医学的にも「パニック障害」という診断名が消え、「うつ病」として扱われることがあります。

診断名と社会的支援

診断名の違いは、患者さんが受けられる社会的支援にも影響を及ぼします。

パニック障害の場合

パニック障害は「神経症」の一種に分類されます。そのため、障害年金の対象には基本的になりません。軽度の症状であり、仕事や趣味をある程度こなせる場合は、診断名として「パニック障害」が妥当です。

うつ病に移行した場合

一方、予期不安や発作の影響で仕事ができなくなり、社会生活に著しい制限が生じた場合、診断は「うつ病」とされることが一般的です。うつ病と診断されれば、障害年金など福祉的な支援を受けられる可能性が広がります。

このため、医療現場では、患者さんが適切な支援を受けられるよう診断名を変更することがあります

実際の診療現場から

実際の診療現場から

外来にもパニック障害の患者さんは多く通院されています。

・軽症例の場合

社会生活は維持できており、薬を服用していれば発作はコントロール可能。月1回の短いカウンセリングでストレスマネジメントを行い、日常生活を支える。

・重症例の場合

電車に1人で乗れない、外出が極端に制限される、仕事に就けないなど、社会機能に大きな障害をきたしている。このような場合は「うつ病」として診断を変更し、障害年金や福祉サービスにつなげることが現実的です。

治療の三本柱

難治例・重症例であっても、治療の基本は変わりません。

1.薬物療法

・抗不安薬で発作への即時対応

・抗うつ薬で不安耐性を高め、長期的な改善を図る

2.生活習慣の改善

・睡眠・食事・運動など日常リズムを整える

・過度なストレスや不規則な生活を避ける

3.カウンセリング

・苦手な場面への曝露訓練(少しずつ慣れていく練習)

・ストレス対処法の習得

・不安のとらえ方を見直す認知行動療法的アプローチ

特にカウンセリングは、重症例においても大きな柱となります。薬で発作を抑えるだけではなく、生活そのものをどのようにコントロールしていくかを一緒に考えていくことが重要です。

まとめ

パニック障害は、本人にとっては命の危機を感じるほどつらい発作を伴う病気ですが、医学的には軽症に分類されることが多い疾患です。しかし、症状が長引き予期不安が続くと、抑うつ気分や意欲低下が加わり、やがてうつ病へと移行するケースが少なくありません。

診断名の変化は、単なる医学的なラベルの違いにとどまらず、社会的支援を受けられるかどうかという現実的な問題にも直結します。そのため、患者さんの生活や社会機能を踏まえた診断が求められます。

治療の基本は薬物療法・生活習慣の改善・カウンセリングの三本柱であり、特にカウンセリングを通じたストレス対処法の習得は重症例においても欠かせません

難治性のパニック障害がうつ病に移行することがある、この事実を知っておくことは、患者さんご本人やご家族にとっても非常に大切な視点になるでしょう。