
認知症は単なる「物忘れ」ではなく、脳の神経細胞の働きが少しずつ失われていくことで、記憶や判断力、生活の習慣までが影響を受ける病気です。精神疾患と異なり、薬で完全に治すことは難しく、むしろ「どのようにケアし、どのような環境で過ごしていただくか」が重要になります。
医師の役割は、診断や薬の処方に加えて、ケアマネジャーや介護サービスと連携しながら、患者さんと家族にとって最も安心できる療養環境を構築することにあります。認知症は進行とともに症状が変化するため、その段階に応じた支援が必要になります。
認知症には主に4つのタイプがあります。
どのタイプであるかを見極めることは、進行の速さや今後の生活設計を考えるうえで非常に大切です。

認知症には進行を抑える薬がいくつか存在します。代表的なものにドネペジル(アリセプト)、メマンチン(メマリー)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(リバスタッチ)などがあります。
それぞれの薬には特徴があり、例えばドネペジルは活動性の低下や抑うつがある場合に効果的で、メマンチンは攻撃性や性格変化が目立つ場合に使われます。ただし、これらの薬は失われた機能を取り戻すものではなく、「進行を遅らせる」ことが目的です。そのため、早期に発見して早期に服薬を開始することが極めて重要になります。
薬物療法はあくまで一部の支えであり、生活習慣の工夫や環境づくりと組み合わせることで初めて効果を発揮します。

認知症が進行すると、物忘れだけでなく、入浴や食事、排泄といった基本的な行動すらできなくなっていきます。そのため、家族や介護者にとっては大きな負担となります。
このとき大切なのは、介護を一人で抱え込まないことです。介護保険制度を利用すれば、デイサービス、訪問介護、ショートステイなど多様な支援を受けられます。特にデイサービスでは入浴やリハビリを通じて心身の維持が期待でき、介護者の休息時間を確保することもできます。
また、介護保険では「要支援」「要介護」という段階的な認定があり、その度合いに応じて利用できるサービスが変わります。最終的に重度になると、特別養護老人ホームなどの施設に入所する選択肢が現実的になります。家族が無理に在宅で抱え込むのではなく、専門機関や施設を活用することが、本人にとっても家族にとっても望ましい場合が多いのです。

認知症に対して最も大切なのは「早期発見・早期介入」です。少しでも物忘れや性格の変化が気になったら、精神科や神経内科を受診し、認知機能検査を受けることが勧められます。早期に診断がつけば、薬物療法や生活支援を早く始めることができ、その後の生活の質を大きく高めることにつながります。
さらに、認知症は個人や家庭の問題にとどまらず、社会全体で取り組むべき課題です。地域包括支援センターや自治体の活動、認知症サポーターの育成などを通じて、地域ぐるみで支える体制づくりが広がりつつあります。認知症への理解を深め、偏見や誤解をなくし、誰もが安心して暮らせる社会を築いていくことが求められています。
このように、医学的な治療、介護や福祉制度の活用、そして社会全体の理解と支え合い。この3つをバランスよく組み合わせることで、認知症と向き合いながらより豊かな生活を送ることが可能になります。