本日は「カサンドラ症候群」について解説していきます。近年、SNSや書籍などで耳にすることも増えてきた言葉ですが、実際にどのような状態を指すのか、そしてどのように向き合えばよいのかを整理してお伝えします。

まず前提として、カサンドラ症候群は正式な医学的診断名ではありません。医師が診断書に「カサンドラ症候群」と記すことはなく、あくまで「状態像」を表す呼称です。
この状態は、アスペルガー症候群(現在は自閉スペクトラム症=ASDに含まれる)傾向を持つパートナーと関係を持つ人が、家庭生活の中で抱える強いストレスや孤立感を指しています。
主な症状としては以下の三つが代表的です。
この三大症状は、精神的な負担を抱えたときに多くの人に現れやすい反応でもあります。
名称の由来はギリシャ神話に登場する「カサンドラ王女」です。彼女は未来を予知する力を持ちながら、神アポロンの怒りによって「真実を語っても誰にも信じてもらえない」という呪いをかけられました。この逸話のように、「苦しみや現実を訴えても周囲に理解されず孤立する状況」を象徴して名づけられたのがカサンドラ症候群です。
ASDの特徴を持つ人々は、知的には問題がない場合が多く、むしろ専門分野に強みを持ち、職場では優秀な人材と見なされることも少なくありません。社会生活ではトラブルを事前に予測し、対処する力(トラブルシューティング能力)が高いため、周囲からは問題が目立ちにくいのです。
しかし家庭に戻ると、状況は異なります。ASDの特性がそのまま表れ、次のような傾向が見られることがあります。
このような状況が続くと、配偶者は「自分ばかりが家庭を支えている」という感覚に陥りやすく、強い孤独感や無力感を抱きやすくなります。外では問題なく適応しているパートナーの姿を知っている周囲からは理解されにくく、結果として「家庭で苦労しているのは自分だけだ」という思いが募ってしまうのです。

カサンドラ症候群そのものは病名ではないため、治療の対象となるのは「不眠」「抑うつ」「不安」といった具体的な症状です。一般的には次のような三本柱で対応します。
中でもカウンセリングは効果的です。個別カウンセリングだけでなく、カップルカウンセリングが推奨される場合もあります。月に一度でも、専門家を介してお互いの思いや特性を整理し合うことで、関係の軌道修正が可能になります。
また、コミュニケーションの工夫も大切です。ASD傾向を持つ人は聴覚情報より視覚情報を理解しやすいため、口頭だけでなくメモや文章に残すことが効果的です。「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、誤解を減らす助けとなります。

カサンドラ症候群の大きな問題は「誰にも理解されない孤独感」です。この点で、現代のSNSは大きな支えとなっています。
自分の体験や気持ちをSNSに投稿することで、同じ悩みを持つ人とつながることができます。リプライや「いいね」がつくだけでも、「自分は一人ではない」と感じられるようになり、孤独感の緩和につながります。
かつてLGBTQの人々が孤立しやすく、出会いの場が限られていた時代と比較すると、SNSの普及は人とのつながり方を大きく変えました。カサンドラ症候群の人にとっても、オンライン上の共感や支援は非常に大きな意味を持っています。
カサンドラ症候群は正式な診断名ではありませんが、多くの人が同じような悩みを抱えているため、社会的には一定の認知を得ています。心理学や精神医学の分野でも「特定のストレス源に起因する状態像」として扱われ、支援の必要性が強調されています。
「病名ではないから軽いもの」と考えるのではなく、実際に生活を困難にし、心身に影響を与える深刻な問題であることを理解する必要があります。

カサンドラ症候群は、ASD傾向を持つパートナーとの関係における孤立感やストレスから生じる「不眠・抑うつ・不安」を中心とした状態を指す言葉です。
「真実を語っても信じてもらえない」という苦しみを象徴するカサンドラの名の通り、この状態を経験している人は深い孤独に陥りがちです。しかし、適切なサポートや共感できる仲間との出会いによって、少しずつその重荷を軽くしていくことができます。