日本は地震や台風など自然災害の多い国です。突然の災害に直面したとき、健常な方であっても衣食住の不足や避難所での生活によって大きなストレスを受けます。特に精神疾患を抱えている方にとっては、日常の治療や服薬が途絶えてしまうことが心身の不調につながりやすく、より深刻な問題となり得ます。ここでは、災害時に精神疾患をお持ちの方がどのように備え、どのように行動すればよいかを考えてみたいと思います。

大規模な災害が起きると、真っ先に困るのが衣食住の不足です。水や食料、衛生環境は大きく制限され、入浴やプライベートな空間の確保も難しくなります。加えて避難所での集団生活は、普段からストレスに弱い方にとって大きな負担になります。
さらに精神疾患を抱える方にとって切実なのが、服薬の継続です。統合失調症、うつ病、パニック障害など、どの疾患であっても薬を中断すると再発や症状の悪化につながる恐れがあります。特に睡眠薬や抗不安薬を服用している方は多く、避難所生活のように寝づらい環境では薬の有無が生活の質を大きく左右します。

災害時に慌てないためには、日頃からの準備が何より重要です。
薬のストック
精神科領域のガイドラインでは、非常時に備えて少なくとも2週間分の薬を確保することが推奨されています。非常用持ち出し袋に薬を入れておき、1年に1度は中身を入れ替えるようにしましょう。
生活必需品の備蓄
水や食料は最低1週間分を家庭に備蓄しておくと安心です。加えて懐中電灯や乾電池、簡易トイレ、避難経路を示した地図なども準備しておきましょう。
情報の確認
災害が起きたときに連絡を取る手段、避難所の場所、かかりつけ医療機関の緊急連絡先などを事前に確認しておくことも大切です。

災害によって医療機関が閉鎖されることもあります。実際、能登半島地震の際にも、病院やクリニックが被災して通常診療を行えない状況が続きました。
そんなときに活用できるのが オンライン診療 です。災害時には全国どこにいる医師ともオンラインで診療が可能となり、処方箋を受け取ることもできます。また、オンライン医療相談では精神科専門医が対応してくれる仕組みが整いつつあり、詐欺や無資格者の心配は基本的にありません。
薬の供給が途絶えている場合には、代替薬を用いることも可能です。例えば抗うつ薬の一部は薬剤名は違っても同じ作用を持ち、量を調整することで置き換えができます。精神科の医師は普段から、病院によって用意されている薬が異なる状況に対応しているため、限られた薬の中で最適な処方を検討するスキルを持っています。
つまり、流通が完全に止まってしまうことは少なく、薬が不足しても工夫によって治療を継続できる可能性は十分あるのです。

避難所での生活は、心身ともに大きな負担になります。特に睡眠環境の悪化は精神的な不調を招きやすい要因です。睡眠薬を確保しておけば、夜に少しでも休むことができ、不安定な状況を乗り越える助けになります。
意外なことに、災害時の避難生活で「精神疾患を抱えているから特別に弱い」ということは必ずしもありません。緊急事態では人間に備わった「火事場の馬鹿力」が発揮され、数週間から数か月であれば意外と頑張れることも多いのです。避難所での共同生活では「皆で一緒に乗り越えよう」という連帯感が生まれることもあり、心の支えになる場合があります。
ただし、長期にわたり避難所生活が続くと心身の疲弊は避けられません。その場合は自治体が提供する仮設住宅や他地域への避難支援を利用することで、生活環境を整えていくことが重要です。
災害時に精神疾患を抱える方が安心して過ごすために大切なのは、次の3点です。
薬のストックを準備すること
2週間分を非常用持ち出し袋に入れておき、定期的に入れ替える。
オンライン診療や相談を活用すること
医療機関が閉鎖しても、全国の医師とつながる仕組みがある。代替薬の調整も可能。
避難所生活に過度な不安を持たないこと
人間は短期間なら火事場の力で耐えられる。仲間と協力し合うことで乗り越えられる。
災害はいつ起きるかわかりません。今からできる準備を進めておくことで、実際に災害に直面したときの安心感が大きく変わります。精神疾患を抱える方にとって、薬の確保と相談できる手段を持っておくことは命綱です。過剰に恐れる必要はありませんが、万一に備えておくことが自分自身と周囲を守ることにつながります。