精神疾患の受容について

精神疾患の受容について

病気を受け入れるということ ― 精神疾患と向き合うために

私たちが日々の生活の中で直面する「病気」には、体の病気だけでなく、心に関わるものも数多く存在します。精神疾患はその代表的なものです。統合失調症、うつ病、双極症、パーソナリティ障害、依存症、そして発達障害など、多岐にわたる疾患があります。これらはいずれも、本人だけでなく家族や周囲の人々に深い影響を与えることが少なくありません。

治療に取り組む上で重要なのは、「病気を受け入れる(受容する)」という姿勢です。本記事では、精神疾患と向き合う際に、なぜ病気の受容が不可欠なのか、そしてどのように受容を進めていくべきかを、治療の三本柱とともに考えていきたいと思います。

精神疾患の治療の三本柱

精神疾患の治療の三本柱

精神疾患の治療には、大きく分けて三つの柱があります。

  1. 薬物療法
  2. カウンセリング(心理療法)
  3. 生活習慣の改善

どの疾患であっても、これらの要素が組み合わさって治療が進んでいきます。しかし、その基盤となるのが「病気の受容」です。受容が進んでいなければ、薬を飲み続けることや生活を見直すこと、さらにはカウンセリングに取り組むことすら困難になるのです。

なぜ病気の受容が大切なのか

なぜ病気の受容が大切なのか

例えば認知症の高齢者を想像してみましょう。施設に入所している方の中には、「なぜ薬を飲んでいるのか分からないけれど飲んでいる」という方が一定数いらっしゃいます。この場合、薬を飲む行為自体は続けられても、病気を理解し受容しているとは言えません。

認知症のように、受容がなくても薬物療法がある程度成り立つ病気もあります。しかし、統合失調症やうつ病、発達障害、依存症などは異なります。これらでは、病気を正しく理解し、納得した上で治療に取り組むことが極めて重要です。

受容が進んでいる患者さんは、薬を忘れずに服薬する傾向が強く、副作用に対しても冷静にメリット・デメリットを比較しながら対応できます。逆に受容が不十分だと、「自分は病気ではない」と考えてしまい、薬の効果や副作用を正しく評価できず、結果的に服薬をやめてしまうことにつながります。その結果、再発や症状悪化を招く恐れが高まります。

薬物療法における受容の意味

薬物療法における受容の意味

薬には必ず効果と副作用があります。例えば、統合失調症の薬で幻覚や妄想が改善しても、体が硬直して歩けなくなるほどの副作用が出ることがあります。この場合、「幻覚や妄想が残っていても、歩けなくなるよりはましだ」と判断する方もいます。

治療とは、このようにメリットとデメリットを天秤にかけながら、自分にとって最も良い選択をしていく過程です。ところが、病気の受容ができていないと、そもそもメリットに目を向けることができず、副作用ばかりに意識が向いてしまい、治療を継続することが難しくなります。

カウンセリングにおける受容の意味

カウンセリングにおける受容の意味

カウンセリングには時間と費用がかかります。そのため、「自分は病気ではない」と思っている人にとって、カウンセリングに通い続けることは大きな負担となり、継続が難しくなります。

しかし病気を受け入れている人にとっては、「治療を進めるために必要な投資」と捉えることができます。心理士との対話や、病気に関する制度(障害年金や自立支援医療制度など)の利用についても、前向きに検討できるようになります。

生活習慣の改善における受容の意味

人は誰しも、自分の生活習慣を「これが一番良い」と信じて行動しています。夜更かしや食事の偏りも、本人にとっては自然なスタイルかもしれません。しかし、精神疾患の治療においては、睡眠リズムや栄養バランスを整えることが大切です。

例えば、うつ病ではトリプトファンやビタミンB6を含む食材(大豆、豚肉、発酵食品など)が推奨されます。こうした生活改善は、病気を受容していなければ「面倒だからやらない」となりがちですが、受容が進んでいると「病気を良くするために必要だ」と理解して取り組むことができます。

病気を受容するための第一歩 ― 疾病学習

では、病気を受け入れるために何から始めれば良いのでしょうか。その答えの一つが「疾病学習」です。

信頼できる情報源をもとに、自分の病気について学ぶことが大切です。精神科医が執筆した教科書や、医療現場で使われている「レジデントマニュアル」などは、その代表的な資料です。難解な専門書を読みこなす必要はなく、一般向けにわかりやすく説明された資料や講義を利用するのも良い方法です。

自分自身で勉強し、病気について理解が深まると、自然に「受容」のプロセスが進んでいきます。もちろん、その速度は人それぞれです。すぐに理解が深まる人もいれば、時間をかけて少しずつ受容に至る人もいます。しかし学びを続けることで、確実に治療への前向きな姿勢が育まれていきます。

家族と一緒に学ぶということ

病気を受け入れるのは本人だけではありません。家族もまた、病気について正しく理解し、共に学んでいくことが大切です。

「あなたの病気について勉強しよう」と直接伝えるのではなく、「統合失調症やうつ病、パーソナリティ障害など、いろいろな病気について一緒に勉強してみよう」と幅広い視点で取り組むと、本人も抵抗感を持ちにくくなります。その中で、自分に当てはまる部分を自然に見つけていくことができるのです。

まとめ ― 受容が治療の扉を開く

精神疾患の治療は、薬物療法・カウンセリング・生活習慣の改善という三本柱によって成り立ちます。しかし、そのどれもが「病気の受容」という基盤の上に成り立っています。

受容が進めば、副作用や費用といったデメリットだけでなく、治療のメリットに目を向けることができ、主体的に取り組む姿勢が育ちます。その結果、治療効果が現れやすくなり、より安定した生活を送ることが可能になります。

受容の第一歩は「疾病学習」です。自分の病気について正しく学び、理解を深めること。そして家族や周囲と共に歩むこと。この積み重ねが、病気を受け入れ、前向きに治療へ取り組む力となるのです。 精神疾患と向き合うことは決して簡単な道ではありません。しかし、病気を受け入れることができた時、その道は少しずつ明るく、歩みやすいものへと変わっていくでしょう。