私たちが人生を歩むうえで、誰もが一度は考えるテーマがあります。それは「どうすれば幸せに生きていけるのか」という問いです。人によって「幸せ」の形は違いますが、この問いは普遍的であり、避けて通ることのできない命題のひとつと言えるでしょう。今回は、その幸せに向かう第一歩として「現状把握の重要性」について考えてみたいと思います。

ある有名な歌の歌詞に「何でもないようなことが幸せだったと思う」という一節があります。このフレーズは多くの人の共感を呼び、大ヒットしました。実はここに、幸せを考えるうえで大切なヒントが隠されているように思います。
日常の中で私たちが当たり前だと思っていること――家族と過ごす時間、友人との会話、仕事や学びの場、健康な体など。これらは失って初めて、その価値に気づかされることがあります。
しかし同時に、誰かにとっては「何でもないことが幸せではなかった」と感じる場合もあるのです。つまり、同じ状況でも「幸せだった」と思える人と「そうではなかった」と思う人が存在するということです。
この2つのパターンを理解することは、自分自身の幸せを考えるうえで非常に重要です。
幸せを形作る要因はたくさんあります。経済的な豊かさ、健康状態、住環境などももちろん大きな影響を与えます。しかし多くの方にとって、最も大きな要素は「人間関係」だと言えるでしょう。
例えば、親子の関係、夫婦の関係、友人や職場の仲間との関係。これらが良好であれば日々の生活は安心感に包まれますが、逆に関係性に不和があれば大きなストレス源となり、人生全体を暗くしてしまうことさえあります。
特に日本社会でしばしば耳にする「八十五十問題」――80歳の親を50歳の子どもが介護する、あるいはその逆で親がまだ成人した子どもの世話をしているという構図。これらは一般的に「不幸な状況」と語られることが多いですが、実際の当事者の感じ方は一様ではありません。
私がこれまでに見てきた事例の中には、介護を通じて幸せを感じる方もいれば、重荷から解放されて晴れやかに生き始める方もいました。
例えば、長年連れ添った奥様を介護してきたご主人。大変な日々を過ごしながらも、「人のために尽くせたことが幸せだった」と語り、その後は喪失感に苛まれ、深いふさぎ込みに陥ってしまう方がいます。中には心の痛みに耐えきれず、自分を傷つけてしまう方もいるのです。
一方で、別の方は奥様を亡くした後、心配されていたにもかかわらず、まるで大学生が初めて一人暮らしを始めたかのように新しい生活を楽しみ始めることもあります。決して夫婦仲が悪かったわけではなく、それまでの生活を大切にしていたにもかかわらず、残された一人の時間を自由と捉え、前向きに歩み出すのです。
この違いは、「何でもない日常を幸せだと感じていたかどうか」によるのかもしれません。
多くの人は、日常の忙しさに追われる中で、自分の生活を支えている人間関係や環境をじっくりと振り返る機会がありません。家族や同居人との関係について深く考えることは少なく、相手が亡くなったり家を出たりして初めて、自分にとってどんな存在だったのかを思い知らされるのです。
しかし、その時に気づいても遅い場合があります。「あの人がいてくれたから自分は安心できていた」と分かっても、同じ状況は二度と戻ってきません。逆に、「自分らしく生きることを妨げられていた」と感じたとしても、その気づきをもっと早く得られていれば、別の選択ができたかもしれません。
だからこそ大切なのは、**「いなくなってから気づく」のではなく、「まだ一緒にいる今のうちに現状を把握すること」**です。
幸せに生きていくためには、まず自分の置かれている状況を冷静に見つめ直すことが欠かせません。

こうした問いを立て、現状を整理することこそが、幸せに向かう第一歩となります。
「何でもないことが幸せだ」と思えるなら、今この瞬間にその幸せをしっかりと味わっておくべきです。反対に「幸せではない」と感じるなら、改善策を考えたり、受け入れる準備をしたりすることが求められます。どちらの場合であっても、まずは自分の現状を客観的に把握することが重要です。
ただ、自分一人で現状を冷静に振り返るのは意外に難しいものです。主観的な思い込みにとらわれてしまい、正しい把握ができないことが多いからです。
そこで有効なのが、第三者の視点を借りることです。専門のカウンセラーに話をすることで、自分では気づかなかった気持ちや人間関係の構造を整理してもらうことができます。カウンセリングの大きな意義は、この「客観視」を手助けしてもらえる点にあるのです。
さらに現代では、AIを活用するという方法もあります。自分の状況や感情をAIに入力し、整理してもらうことで、頭の中のモヤモヤを客観的な言葉として捉えることができます。これは自己理解を深める新しい手段として、とても有効だと考えられます。
幸せに生きるための第一歩は、特別な出来事や大きな成功を追い求めることではありません。今、自分が置かれている状況を丁寧に振り返り、日常に潜む幸せの種を見つけ出すことにあります。
「何でもないことが幸せだった」と感じる人もいれば、「そうではなかった」と感じる人もいます。どちらのパターンであっても、今この瞬間の現状を把握することで、未来の自分の歩み方は大きく変わります。
失ってからではなく、まだそこにあるうちに気づくこと。そのために自分を客観的に見つめる習慣を持ち、必要であれば専門家やAIの力を借りること。これこそが、幸せに生きていくための確かな第一歩なのではないでしょうか。