統合失調症という病気は、幻覚や妄想といった精神症状に注目が集まりがちです。しかし実際には、心の問題だけでなく「体の健康」や「寿命」といった観点も無視できない大きなテーマであることが分かっています。
内科においては「治療によってどのくらい寿命が延びるのか」ということが非常に大きな関心事です。本稿では、統合失調症と寿命の関係について考えてみたいと思います。

統合失調症の方は、一般人口と比べて身体疾患にかかるリスクが高いことが数多くの研究で示されています。同じ年齢・性別で比較しても、糖尿病や心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病を発症しやすい傾向があるのです。
ただし、誤解していただきたくないのは「統合失調症そのものががんを引き起こしやすいわけではない」という点です。むしろ、がんそのものの発症リスクは大きく変わらないと考えられています。問題は「がんの発見が遅れやすい」という点にあります。
統合失調症の方は意欲の波が大きく、健康診断や定期的な受診が生活習慣の中で抜け落ちてしまうことが少なくありません。その結果、がんが進行した段階で初めて発見されるケースがやや多いのです。

統合失調症の方に特に多くみられるのが糖尿病です。その背景には大きく二つの要因があります。
一つは生活習慣の影響です。食事に強いこだわりを持つ方もいれば、反対に非常に無頓着な方もいます。全体としては「カロリーや栄養に無関心な傾向」がやや強く、結果として高カロリーな食事や不規則な生活が糖尿病を招きやすくなります。
もう一つは治療薬の副作用です。抗精神病薬の中には、糖代謝に影響を与え糖尿病の発症リスクを高めるものがあります。特に「MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)」と呼ばれるタイプ、すなわちオランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)などは比較的多く使用される薬でありながら、糖尿病との関連が指摘されています。
糖尿病はそのまま放置すると、脳梗塞や心筋梗塞といった重大な合併症につながります。また腎臓の機能が低下し、透析が必要となる場合もあります。つまり、糖尿病を起点として命に関わる生活習慣病へと発展する危険が高いのです。

もう一つ重要な問題が「肺炎」です。特に高齢の統合失調症患者さんでは、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。
抗精神病薬の副作用の一つに「錐体外路症状」があります。これは運動の調整を担う神経回路がうまく働かなくなることで、滑らかな動作が難しくなる症状です。言葉がはっきりしなくなったり、飲み込みがスムーズにいかなくなったりすることも少なくありません。
嚥下機能が低下すると、食べ物や唾液が気管に入り込み、肺炎を引き起こすリスクが高まります。特に60歳を超えてからはその危険性が増し、繰り返し肺炎を起こすことで肺が弱くなり、さらに感染を繰り返す悪循環に陥ってしまうのです。
また、長期間にわたり同じ量の抗精神病薬を服用している方では、加齢によって薬の代謝能力が落ちているにもかかわらず、薬の量が過剰になりやすいことがあります。そうした場合、錐体外路症状がより強く出てしまい、嚥下障害から肺炎へとつながる危険が高まります。したがって、高齢期には薬の量を見直し、慎重に減量を検討することが大切です。
ここまで述べたように、統合失調症の方は生活習慣病や肺炎のリスクが高い傾向があります。しかし、これは決して避けられない運命ではありません。適切な予防やケアによって十分に対策することが可能です。
まず生活習慣病に関しては、定期的な健康診断と血液検査が何より重要です。血糖値、血圧、コレステロールといった基本的な項目をチェックし、必要に応じて早期に治療を開始すれば、脳梗塞や心筋梗塞といった重大な合併症を防ぐことができます。
特に注意したいのは、働いていない場合には40歳未満では自治体の無料健診の機会が少ないという点です。そのため、精神科外来に通院している患者さんには、少なくとも年に一度は採血や心電図、胸部レントゲンなどを受けることを強くお勧めしています。
また高齢期には、服薬量を年齢や体の状態に応じて見直すことが欠かせません。「若いころから同じ薬を同じ量飲んでいるから大丈夫」と思い込まず、主治医と相談しながら調整をしていくことが、肺炎の予防にも直結します。

統合失調症の方は、確かに一般人口と比べるとやや寿命が短い傾向があるとされています。その主な要因は、糖尿病をはじめとする生活習慣病と、高齢期の肺炎です。しかし、これらは予防とケアによって大きく改善することが可能です。
定期的な健康診断による早期発見・早期治療、生活習慣の見直し、そして加齢に応じた薬の調整。これらを実践することで、統合失調症の方も十分に天寿を全うすることができると私は考えています。
大切なのは「その人らしく生きること」です。寿命の長さだけでなく、ご本人が納得できる人生を歩んでいただくことが最も重要です。そのための基盤として、体の健康を守ることは欠かせません。
統合失調症を抱える方も、そして支えるご家族や医療者も、「心と体の両方を大切にする視点」を持つことが、よりよい人生につながると強く願っています。