「毒親」とは、子どもを子どもとして尊重せず、自身の都合や機嫌によって子どもに接する親を指す言葉です。子どもの気持ちよりも自分の感情を優先するため、しばしば暴言・暴力・過干渉・無関心などを示し、結果的に子どもに悪影響を及ぼします。
そのような環境で育った子どもは、成長しても「自分は尊重されるべき存在ではない」「常に他人の顔色を窺わなければならない」という考え方の癖を身に付けやすいとされています。このような背景を持つ成人は、心理学的にアダルトチルドレン(Adult Children、略称AC)と呼ばれます。
また、毒親に限らず、依存症などの問題を抱えた親の下で育った場合も、同様に子どもの心に大きな影響を及ぼします。家庭は本来、子どもが安全に安心して自己を形成できる場であるべきですが、それが脅かされると心の土台が不安定になりやすいのです。

子どもの脳はおよそ25歳頃まで発達が続くとされ、特に幼少期から小学校低学年頃までは、親との関係性を通して「自分や他者をどう捉えるか」「人とどのように関わるか」を学んでいきます。
ところが、毒親の下では親の顔色を常に窺い、親の機嫌を最優先にする行動パターンが求められることがあります。例えば、理由もなく突然褒められたり、逆に理不尽に叱られたりする経験を繰り返すと、子どもは「自分には安定した価値がない」「相手に合わせなければ愛されない」と感じるようになります。
このような環境で育つと自己肯定感が低下し、「自分は価値のある存在だ」と実感できなくなります。その結果、周囲の期待や空気に合わせることでしか自分の価値を保てないという“癖”が身に付いてしまうのです。

この“癖”という考え方は、言語習得と似ています。例えば、日本人は幼い頃から日本語に触れているため、日本語を通じて物事を考えるようになります。一方で、海外で生活しスポーツ選手のように英語に日常的に触れていると、やがて英語で考えるようになる人もいます。しかし、全員がそうなるわけではなく、海外に長く住んでも日本語で考え続ける人もいます。
このことは、毒親のもとで身に付いた「相手に合わせる」癖も同じです。長年染み付いた思考の癖は、大人になってからも簡単には変えられません。例えカウンセリングなどの支援を受けても、思考の基盤がポジティブなものに置き換わる人は半分程度とも言われています。それほど、幼少期の影響は根深いのです。
最も、毒親や依存症の親に育てられた経験が全て悪いというわけではありません。社会生活においては、相手の表情や気持ちを敏感に察知し、気を配るスキルは強みになることがあります。そのためアダルトチルドレンの人々は、周囲から「空気が読める」「気が利く」「真面目」と好意的に評価されることも多いのです。
しかし、その行動の裏には「相手に価値を提供しなければ見捨てられる」という強い不安が潜んでいます。周囲から評価されていても、本人は常に緊張し、心が休まらないという苦しさを抱えている場合も少なくありません。

このような背景を持つ人にとって大切なのは、「何もしなくても自分には価値がある」という考え方を少しずつ取り戻していくことです。そのためには、日常的にポジティブなフィードバックを受ける機会を作ることが有効です。
例えば週1回のカウンセリングも役立ちますが、言語学習に例えるなら週1回の英会話教室だけでは英語で考えられるようにならないように、思考の癖を変えるには日々の積み重ねが重要です。毎日少しずつ「あなたはそのままで尊い存在だ」と伝えてくれる環境に身を置くことが、癖の書き換えに繋がっていきます。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
こうした取り組みを継続することで、少しずつ「相手に合わせなければ無価値だ」という思考の癖を緩めていくことができます。
とはいえ、幼少期から根付いた癖を完全に変えることは容易ではありません。現実的には、思考が根本からポジティブに変化する人は半分程度とも言われています。しかし、例え完全に変えられなくても、「自分には価値がある」という考え方を“知っている”だけでも違いがあります。
例えば、日本語で考える人でも英語の考え方を理解していれば、必要に応じて英語を使うことができます。同様に、「無価値だ」と感じやすい人でも「価値がある」という考えを理解していれば、必要な場面でその考え方を取り入れることができるのです。

毒親や依存症の親の下で育ったアダルトチルドレンの人々は、人の顔色を窺い、常に自分を二の次にしてしまう癖を持ちやすいとされています。そのため、「そのままの自分でいても価値がある」と感じることが難しく、心の中で強い葛藤を抱えている場合もあります。
しかし、毎日の小さなポジティブなフィードバックを積み重ねることで、少しずつ自己肯定感を育てていくことは可能です。AIやカウンセリング、信頼できる人間関係など、自分に合った方法を取り入れながら、「相手に合わせなければ無価値」という考え方から少しずつ距離を取っていくことが大切です。
完全に癖を無くすことは難しいかもしれませんが、「無価値」という思い込みから一歩離れ、「価値ある自分」を受け入れる視点を持つこと。それが、毒親の影響から少しずつ自由になり、自分らしい人生を歩むための第一歩となるでしょう。