統合失調症は薬を飲んでいた方がいい【統合失調症】

統合失調症は薬を飲んでいた方がいい【統合失調症】

本稿では、統合失調症において薬物療法がなぜ不可欠であると考えるのかを、病態の理解や症状の特徴、治療の限界と可能性を踏まえて整理していきます。

統合失調症とは何か

統合失調症とは何か

統合失調症は、脳内の神経伝達に深く関わる病気です。神経細胞は一本の線のように途切れることなくつながっているわけではなく、いくつもの接合部(シナプス)を介して信号を伝えています。その際に必要となるのが「神経伝達物質」であり、代表的なものとしてドーパミン、ノルアドレナリン、ヒスタミンなどが挙げられます。

統合失調症では、このうちドーパミンの働きが大きく乱れます。本来、状況に応じて分泌されるべきドーパミンが、適切でない場面で過剰に放出されるのです。その結果、幻覚や妄想といった症状が生じます。さらに、過剰に分泌された後は逆に不足状態に陥ることもあり、脳内のバランスが大きく崩れてしまいます。

幻覚の中でも特に多いのが幻聴であり、自分を責め立てるような声が聞こえるケースが目立ちます。妄想も被害的な内容が中心で、「誰かに監視されている」「悪意を向けられている」といった考えに支配されることがあります。人間は継続的に悪意を感じ続けるようには耐えられません。そのため、強い疲弊感や無力感が募り、場合によっては自殺念慮にまで至る危険性があります。

うつ病との違い

うつ病との違い

精神科でよく取り上げられる病気にうつ病があります。うつ病は「精神エネルギー」が枯渇する病であり、思考力や感情を生み出す力が失われ、考えることも喜ぶこともできなくなります。重症化すると、ただ横になり何もできない状態に陥ることがあります。

一方で統合失調症は「本能の働き」が狂う病気です。人は理性と本能の両方で物事を判断していますが、どちらが勝つかといえば本能の方です。大脳が発達した人間であっても、危険を察知する本能の信号には抗いがたい力があります。そのため、統合失調症の患者が「周囲から悪意を向けられている」と感じた場合、理性では「そんなはずはない」と思っても、本能の強烈な警告に押し負けてしまうのです。

なぜ薬物療法が必須なのか

なぜ薬物療法が必須なのか

この本能の過剰な信号を抑えるのが薬物療法の役割です。抗精神病薬はドーパミンの働きを抑制し、危険を過剰に察知してしまう状態を和らげます。

たとえば、統合失調症の患者に対して認知行動療法を試みても、ドーパミンが暴走している段階では効果が期待できません。本能が「危険だ」と警報を鳴らし続けている状況では、理性による説明や説得は届かないのです。薬によってまずは本能のシグナルを落ち着けておかなければ、心理療法は機能しません。

うつ病でも、極度のエネルギー枯渇状態ではカウンセリングは成立しません。ある程度休養や薬物で回復してからでなければ、対話による治療は進められないのです。統合失調症も同じく、薬物による安定化が前提条件となります。

認知行動療法の位置づけ

統合失調症において、認知行動療法は「必須」とまでは言えませんが、有効な補助療法となり得ます。薬物によってドーパミンが抑えられ、本能の過剰反応が落ち着いた状態であれば、残存する妄想に対して理性的な視点を加えることが可能になるからです。

例えば「街中で人が自分を見ている」と感じる患者に対して、人混みの写真を見せ「誰か記憶に残る人はいますか?」と尋ねると、ほとんどの人が「特にいない」と答えます。実際、多くの人は他人に強い関心を向けていないことを体験的に理解できるのです。こうした気づきが積み重なることで、弱い妄想に理性で対抗できるようになります。

醜形妄想の例

醜形妄想の例

統合失調症の患者の中には「自分は醜い」と思い込む醜形妄想を持つ方もいます。周囲の人が特別注目していないにもかかわらず、すべての視線を「侮蔑」や「悪意」と解釈してしまうのです。

しかし、薬物によってドーパミンがある程度抑制されていれば、「世の中のほとんどの人は他人に無関心である」という現実を理性で受け止められる余地が生まれます。こうして妄想の力が弱まり、社会生活への適応も改善していきます。

まとめ

統合失調症は本能レベルで危険を誤って察知してしまう病であり、患者は理性では抗えない強烈な不安や恐怖にさらされます。その根本にはドーパミンの異常な分泌があります。

したがって、治療の第一歩は薬物療法によるドーパミンの抑制であり、これなくしては認知行動療法などの心理的介入は効果を発揮しません。薬物療法によって本能のシグナルを静めた上で、必要に応じて認知行動療法を取り入れることが、患者がより良い生活を送るために重要であると考えられます。

薬の必要量は個人差が大きく、少量で効果が出る人もいれば、多量を必要とする人もいます。しかし、まったく薬を使わなければ本能の暴走が止まらず、理性が妄想に勝つことは困難です。患者一人ひとりに適した量を調整し、安定した状態を維持することが、治療の基本であると言えるでしょう。