空虚感や虚しさについて

空虚感や虚しさについて

空虚感(虚しさ)と向き合うために

~境界性パーソナリティ障害・アルコール依存症との関わりから考える~

私たちが生きていく中で、多くの人が一度は「虚しい」「空っぽだ」と感じた経験をお持ちではないでしょうか。楽しいはずの出来事の後に心に残る空白感や、日々を過ごしているはずなのにどこか満たされない感覚。それが一時的なものなら自然な心の揺れとして受け流せるかもしれませんが、慢性的に続く場合には大きな生きづらさとなり、心の健康にも影響を及ぼします。

今回は、精神科臨床でもしばしば語られる「空虚感・虚しさ」について、その背景や成り立ち、そして向き合い方について考えていきたいと思います。

空虚感と精神疾患の関係

空虚感と精神疾患の関係

精神疾患の根底に、この「空虚感」が深く関わっていることがあります。代表的なものとして知られているのが境界性パーソナリティ障害です。診断基準のひとつにも「慢性的な空虚感」が明記されており、患者さんの多くが「自分はいつまでたっても満たされない」という思いを抱えています。

そのため、周囲の人を試すような行動に出たり、相手の反応から一時的な安心を得たりします。しかし安心は長続きせず、再び虚しさに襲われ、同じ行動を繰り返してしまう。この悪循環が人間関係を難しくし、さらに苦しさを深めていくのです。

典型例として語られるのは、若い女性に多いとされるタイプです。自己肯定感が低く、恋人や周囲の人に過剰に依存してしまう。そして相手が離れようとすると「見捨てないで」とリストカットや自傷行為に至るケースがあります。ただし、これはあくまでステレオタイプであり、実際には知性や社会性が高く、外からは虚しさを悟られにくい方も少なくありません。

一方で、男性において「空虚感」が根底にある疾患として目立つのがアルコール依存症です。仕事や家庭では「理想の姿」を演じ続けなければならず、そのプレッシャーや疲れから「シラフではいられない」と感じてしまう方がいます。社会的地位が高く、一見すると順調に見える生活を送っていても、内側には慢性的な虚しさを抱えている場合があり、その逃げ場としてアルコールを手放せなくなってしまうのです。

つまり、女性ではパーソナリティ障害、男性ではアルコール依存症に空虚感が深く関わるケースが目立ちますが、性別に限らず誰もが抱え得る問題だと言えるでしょう。

虚しさの正体 ― 表面とコア

虚しさの正体 ― 表面とコア

では、この虚しさはどこから生まれてくるのでしょうか。

人の心には大きく分けて「表面」と「コア(本質的な部分)」があると考えられます。表面は社会生活を送る上で他人に合わせたり、日常をこなしたりする部分。一方で、コアはその人の根本的な欲求や存在感を司る中心部分です。

表面上では楽しそうに振る舞えても、コアの部分が常に満たされないと、心の奥底に「空虚感」が残ってしまいます。これは誰にでも起こり得る現象であり、特に「自分の本質的な部分とつながれていない」と感じやすい人ほど強く虚しさを抱える傾向があります。

生まれつきか、育ちか

虚しさの原因は「生まれ持った素質」と「育てられ方」、この二つが大きく関係していると考えられています。割合で言えば、おおよそ 50:50。

親からの無条件の愛情を十分に受けられなかったために自己肯定感が低下し、慢性的な空虚感につながるケースもあります。しかし、それだけでは説明できません。愛情深く育てられたにもかかわらず、根本的に満たされない虚しさを抱える人もいるからです。

したがって「育ちが悪かったから」だけではなく、「生まれ持った気質や体質」が関与していることも忘れてはいけません。

カウンセリングでできること

カウンセリングでできること

空虚感に向き合うためには、自分のコアからの声を聞く必要があります。しかし、普段の生活は表面的な部分で成り立っているため、なかなかコアに触れる機会はありません。

そこで役立つのがカウンセリングです。最初の段階では日常生活を整え、生活リズムや課題を整理していくことから始まります。しかし、それだけでは表面が整うだけで、コアの虚しさは変わりません。

重要なのは、ある時点で信頼関係を築いたうえで、ゆっくりとコアに切り込んでいくことです。コアに触れる作業は痛みを伴い、生活が一時的に不安定になるリスクもあります。しかし、それを理解したうえで進めなければ、根本的な回復にはつながりません。

また、空虚感に気づいたからといってすぐに解決するわけではありません。むしろ「自分には虚しさがある」と自覚しながら、表面の日常を丁寧に整えていくことで、爆発的な行動(自傷や依存)を避けることができます。その積み重ねが、徐々に問題行動を減らし、生活の安定につながるのです。

向き合い方のまとめ

・空虚感は、境界性パーソナリティ障害やアルコール依存症の根底に見られることが多い。

・「生まれつきの素質」と「育ち方」が複雑に絡み合い、慢性的な虚しさを生み出している。

・表面的な楽しさだけではコアは満たされず、虚しさは残り続ける。

・カウンセリングでは、表面を整えつつ信頼関係を築き、適切なタイミングでコアにアプローチしていくことが重要。

おわりに

おわりに

虚しさや空虚感は、誰もが抱え得る普遍的な感情です。境界性パーソナリティ障害やアルコール依存症といった疾患の背景にあるものとして語られることも多いですが、それは決して特殊な人だけの問題ではありません。

「なぜ自分は虚しいのか」と一人で悩み続けても答えは簡単には出ません。だからこそ、カウンセリングなど専門的なサポートを受けながら、少しずつ自分のコアに向き合う時間を持つことが大切です。

空虚感に正面から向き合い、自分の内面を理解し、表面的な生活とのバランスを整えていく。その積み重ねが、やがて「虚しさに振り回されない生き方」への第一歩となるでしょう。