うつ病は、単に気分が落ち込むだけの病気ではありません。思考や行動の傾向に大きく影響を与えることが多く、特に「ネガティブ思考」と「完璧主義」が目立つ特徴として見られることがあります。もちろん、すべての患者さんに当てはまるわけではありませんが、診察の場面で繰り返し観察される傾向です。本記事では、その特徴と改善の道筋について分かりやすく解説していきます。

ある患者さんの出来事です。その方がとある先生に対して「先生、この後どんな予定がありますか?」と尋ねました。先生は「この診察の後、友人との飲み会に行く予定です」と答えました。すると患者さんは「それは大変だ、診察を早く終えて飲み会に行ってください」と強く気遣ったのです。
先生は「飲み会なんて多少遅れてもいい」と思っているため、そのまま丁寧に診察を続けるつもりでした。しかし患者さんは「開始時間が決まっているのだから必ず守らねばならない」と考え、その思いに支配されてしまったのです。これはまさに、完璧主義や「べき思考」によって日常の出来事が過度に負担になってしまう一例と言えるでしょう。

仕事や生活において「きっちりやりたい」「時間を守るのは当然だ」という考えは、社会的にも評価されやすいものです。実際、責任感の強さや几帳面さは、仕事の成果を高める要因にもなります。しかし、それが過度になると「必ずそうでなければならない」という強迫的な思考に発展し、柔軟性を失ってしまいます。
例えば、能力が高くてもズボラな人は仕上がりが粗いことがありますし、逆に能力がそれほど高くなくても完璧主義的に粘り続ける人は仕事がなかなか終わらないことがあります。つまり「能力 × 完璧主義度合い」によって仕事の成果やスピードが決まる部分があるのです。
問題は、うつ病を発症する方の多くが、この「完璧主義」と「ネガティブ思考」に強く支配されていることです。「うまくいかないと何か悪いことが起きるのではないか」という漠然とした不安が常に頭を占めてしまうのです。
では、どうすればこの思考の癖を緩めることができるのでしょうか。大きく分けると「薬物療法」と「カウンセリング」の二つの柱があります。
薬物療法
抗うつ薬や抗不安薬には、考え方そのものを180度変える力はありません。服薬によって急にポジティブになる、といったことは起こりません。しかし、同じ思考に囚われ続ける「こだわり」を和らげる効果があります。頭の中で同じ考えが何度もぐるぐる回り続ける状態が少し緩むことで、カウンセリングを受け入れる余地が生まれるのです。
カウンセリング
カウンセリングでは「実際に起こり得るさまざまなパターンを考える」作業を行います。例えば「飲み会に遅れたらどうなるか?」という問いに対して、これまで「絶対に間に合わなければならない」としか考えられなかった人が、「遅れても意外と大したことはないのでは」と別の視点を持てるようになります。
これを繰り返すことで、「べき思考」「完璧思考」に少しずつ隙間ができ、柔軟な捉え方ができるようになっていきます。重要なのは、いきなり大きく変わる必要はないという点です。小さな気づきの積み重ねが、最終的に思考の幅を広げていくのです。

カウンセリングは、カウンセラーとの相性によって大きく左右されます。話しやすい相手であれば「この人と話したい」という気持ちが続き、自然にプロセスが積み重なっていきます。逆に苦痛が大きいと通い続けることが難しくなります。そのため、無理なく続けられる環境を整えることも、治療において欠かせない要素です。

うつ病の患者さんの多くには、完璧主義やネガティブ思考といった特徴が見られます。それ自体は必ずしも悪いものではなく、社会生活において役立つこともあります。しかし、過剰になると心を圧迫し、うつ病の症状を悪化させる要因となります。
治療では、薬物によって思考の「こだわり」を緩め、カウンセリングを通じて「別の選択肢もある」と気づけるようにすることが重要です。思考の方向性を180度変えるのは難しいですが、少しずつ「脇道」に逸れることを許せるようになれば、日常生活の中での苦しさは軽減していきます。
完璧であることに縛られず、「多少遅れてもいい」「違うやり方もある」という柔軟さを取り戻すこと――それこそが、うつ病の回復への大切な一歩になるのです。