
うつ病は現代社会において誰にでも起こりうる心の病ですが、中には治療を受けてもなかなか症状が改善しない「難治性うつ病」と呼ばれるケースがあります。症状が長引いたり再発を繰り返したりすると、本人も周囲も「どうすれば良くなるのだろう」と悩みます。ここでは、精神科医が難治性うつ病をどのように考え、どのような観点から治療を組み立てていくのかを整理してみましょう。

精神科では難治性うつ病を考える際、特に次の3点を重要な鑑別の軸としています。
これらは治療方針を大きく左右するため、丁寧な観察と問診が欠かせません。
① 昏迷・亜昏迷とは何か
うつ病の症状が重くなると、外から見てもほとんど反応がなく、まるで意識障害のように見えることがあります。これを「昏迷」あるいは軽度の状態を「亜昏迷」と呼びます。
昏迷・亜昏迷では、本人の意識自体は保たれているものの、精神的エネルギーが極端に低下し、思考が頭の中をぐるぐると巡ってフリーズしてしまうため、外界からの刺激に反応できなくなるのです。
意識障害と異なるのは、その間の出来事をある程度覚えている点です。例えば入院中に身体を拘束されたことを後からはっきり記憶している場合もあります。
こうした状態はうつ病でも起こり得ますが、非常に重篤であり、入院による電気けいれん療法や強力な薬物療法が必要となることも少なくありません。
② 人格水準の低下
「人格水準の低下」とは、病気を発症する前と比べて、その人の生活態度や振る舞いが大きく崩れてしまう状態を指します。
たとえば、以前は会社でスーツを着て働いていた人が、現在は身だしなみを整えることすらできず、髭を剃らずに生活している。こうした姿は、以前の本人を知る人からするとまるで別人のように映ります。
このような場合、うつ病であっても精神病的な要素が強く、**幻覚や妄想を伴う「精神病性うつ病」**に近づいている可能性があります。典型的には「貧困妄想」「罪業妄想」「心気妄想」といった、自分を極端に卑下する考えに支配されることが多いのです。
治療においては抗うつ薬に加えて、抗精神病薬の併用が必要になる場合があり、早期に強力な治療を行うことが望まれます。
③ 双極性障害の可能性
うつ病と診断されているものの、実は「双極性障害(躁うつ病)」のうつ状態を見ているだけ、というケースもあります。
うつ病では気分が「普通」に戻るだけですが、双極性障害では気分が過度に高揚する「躁状態」に転じることがあります。睡眠時間が短くても元気に活動したり、浪費や自信過剰に走ったりするのが特徴です。
この場合、治療は抗うつ薬だけでは不十分で、気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなど)を基本に据え、必要に応じて少量の抗うつ薬を加えるといった方針がとられます。

とはいえ、これら3つの重篤な病態に当てはまらないケースが実際には7~8割を占めます。外から見れば仕事や学校に戻れそうに見えるのに、本人にとっては強い気分の落ち込みや意欲の低下が続いている、という状態です。
このような場合、次のようなアプローチが有効とされます。
1. 薬物療法の工夫
薬の作用機序を変えることで、症状が改善する場合があります。
2. リハビリテーション
日中の過ごし方を安定させることで、社会復帰への足掛かりとなります。
3. カウンセリング
こうした心理療法の併用が、長期的な回復を支えるのです。

難治性うつ病を考えるうえで重要なのは、次の3つの重症病態を見極めることです。
これらが疑われる場合には、早期に専門的かつ強力な治療が必要です。
一方で、大多数の患者さんは外見上は普通に見えても内面で大きな苦しみを抱えており、薬物療法の工夫、リハビリ、カウンセリングなどの組み合わせが有効となります。
うつ病が長引いているからといって、すぐに希望を失う必要はありません。医師や支援機関と連携し、段階的に回復への道を歩むことが大切です。