皆さんは、日常生活の中で「薬を飲み忘れてしまった」という経験はないでしょうか。特に精神科で処方される薬は、毎日の服薬が治療の土台となるため、忘れてしまったときにどう対応すればいいのか、不安に思う方も多いと思います。
今日は、精神科でよく用いられる薬を例に挙げて、「飲み忘れた場合どうしたら良いのか」を一緒に考えていきたいと思います。対象となるのは大きく分けて以下の4種類です。
それぞれの特徴と、飲み忘れたときの対処法を順番に解説していきます。

まず一番わかりやすいのが睡眠薬です。睡眠薬は「その夜眠るための薬」ですから、飲み忘れたときに朝になってから飲む人はほとんどいません。
問題になるのは「夜中に気づいた場合」です。例えば、夜の21時〜23時ごろに就寝し、午前1時や2時に目が覚めて「そういえば薬を飲んでいなかった」と気づくことがあります。
このときの基本的な考え方は、深夜0時を過ぎてからは飲まないほうが良いということです。なぜなら、その時間以降に睡眠薬を服用すると、翌朝まで眠気が残りやすく、日中の活動に支障をきたす恐れがあるからです。
ただし、そもそも就寝が深夜にずれ込む生活スタイルの方もいます。その場合は「起床予定時刻の4〜5時間前まで」であれば服用を検討してもよいとされています。それを過ぎている場合は、思い切ってスキップしてしまう方が安全です。

抗不安薬は、その名の通り「不安をやわらげる薬」です。飲み忘れたということは、その時間帯は強い不安を感じていなかったとも言えるでしょう。
そのため、基本的な対応は飲み忘れた分はスキップして、次の服薬タイミングで飲む、これに尽きます。
例えば朝に飲み忘れて昼に気づいた場合は、昼に飲めば十分です。もし処方が「朝のみ1回」であれば、その日はスキップして翌日からきちんと飲めば大丈夫です。
長時間作用型の抗不安薬(例:メイラックス、ロプラゼプ酸エチルなど)は1日持続するため、翌日に持ち越しても大きな問題はありません。飲み忘れは「その時点で不安を感じていなかった」というサインでもありますから、過度に心配する必要はありません。
抗うつ薬は服用タイミングが薬によって異なります。朝に飲むタイプ(サインバルタなど)、夕食後に飲むタイプ(パキシル、レクサプロ、ジェイゾロフトなど)、寝る前に飲むタイプ(リフレックスなど)があります。
もし飲み忘れても、その日のうちに気づいたなら、その時点で服用して大丈夫です。例えば朝に飲み忘れて昼に気づいた場合は昼に、夕方気づいたら夕方に飲めばよいでしょう。
ただし「寝る前に飲む薬を忘れて、翌朝に気づいた」など、すでに日をまたいでしまった場合はスキップしてください。
抗うつ薬は即効性というより、脳内に少しずつ貯蔵されていくことで効果を発揮する薬です。1日飲み忘れただけで急に効かなくなるわけではありません。ただし、何日も連続して忘れてしまうと「薬のタンク」が空になり、効果が落ちてしまいます。
重要なのは、飲み忘れたからといって翌日に2倍飲まないことです。血中濃度が急に上がり、副作用(強い眠気や吐き気など)が出る可能性があるからです。
抗精神病薬(リスパダール、セロクエルなど)も抗うつ薬と同じで、その日のうちに気づいたら服用してよい薬です。
ただし、1日1回だけ服用するタイプを飲み忘れて翌日になってしまった場合は、やはりスキップしてください。翌日に2倍飲むと、眠気やだるさなどの副作用が強く出ることがあります。
一方で、1日2回や3回に分けて服用している方が朝の分を忘れ、昼に気づいた場合は「昼に飲んでもOK」です。その場合は、もともとの1日量を少しまとめて飲むことになるだけで、致命的な副作用につながることは少ないです。

精神科の薬は「飲み続けることで安定する」という特徴を持っています。そのため、たびたび飲み忘れがあると、期待した効果が得られにくくなります。
医師は患者さんが「きちんと飲んでいる」前提で薬を調整します。しかし実際には、服薬率が低いと「効いていない」と判断され、不要に薬の量を増やされてしまうことがあります。これでは副作用が強くなるだけで、治療がうまく進みません。
理想は「9割以上の服薬率」です。1か月分30日処方されたら、27日分くらいは飲んでほしい、というのが医師としての本音です。
「どうしても飲み忘れてしまう」という方も少なくありません。その場合は、以下の工夫がおすすめです。
忘れやすいことを正直に主治医に伝えることが、結果的に最も安全で効果的な治療につながります。

薬の飲み忘れは誰にでも起こり得ることです。大切なのは、慌てずに正しい対応を知っておくこと。そして「飲み忘れやすい」という特性を主治医と共有し、工夫を取り入れながら治療を続けていくことです。
精神科の治療は長い道のりになることも多いですが、「確実に服薬すること」がその第一歩です。