心の不調が身体や意識の働きに大きな影響を与えることがあります。精神医学の領域では、強いストレスや心理的な負担が原因で、本来できるはずのことができなくなってしまう状態を「解離性障害」や「転換性障害」と呼びます。これらの病気は、表に現れる症状こそ異なりますが、その根本には「脳や心への過剰な負荷」が存在しているという点で共通しています。本稿では、この二つの障害について、定義や症状、診断の流れ、治療法などを整理しながら解説していきます。

転換性障害(コンバージョン障害)は、強いストレスをきっかけに、身体の一部を思うように動かせなくなるなどの症状が現れる病気です。医学的な検査では異常が見つからないにもかかわらず、身体的な不自由が起こることが特徴です。
例えば、ある患者さんは新しい職場で強いストレスを抱えていました。1年ほど経った頃、突然片足が動かなくなり、神経内科で精密検査を受けましたが、異常は見つかりませんでした。このようなケースでは、ストレスによって身体機能が一時的に制限される「転換性障害」と診断されることがあります。
一方、解離性障害は「精神の働き」に問題が生じる障害です。こちらも強いストレスが背景にあり、意識や人格の統合が保てなくなることが特徴です。
診断の際には、まず脳の検査や脳脊髄液の検査で器質的な疾患(脳炎や髄膜炎など)を除外します。そのうえで「心理的ストレスが原因である」と判断された場合に、解離性障害と診断されます。

両者の共通点は、「ストレスや心理的負荷が原因で、本来できるはずの機能ができなくなる」という点です。ただし現れ方には違いがあります。
いずれも「脳が過剰な負荷に耐えられなくなった結果」と考えると理解しやすいでしょう。

残念ながら、これらの障害に特効薬は存在しません。治療は「ストレスやトラウマにどのように向き合うか」に重点が置かれます。
ただし、薬はあくまでも補助的な役割にとどまります。
むしろ重要なのは、現在の生活状況や過去のトラウマを整理していく作業です。トラウマは「触れすぎても悪化し、触れなさすぎても改善につながらない」という難しさがあります。その匙加減をうまく行える心理士やカウンセラーの支援が大きな力となります。
解離性障害や転換性障害は、症状の軽重に幅があります。比較的軽いケースでは薬やカウンセリングで改善が期待できますが、幼少期の強いトラウマや、現在の生活環境の複雑さ(家族関係、職場のストレス、芸能・スポーツなど不安定な職業)によっては、治療が難航する場合もあります。医療の力で解決できる部分と、そうでない部分があるという現実も忘れてはなりません。
特に効果が期待できるのが、トラウマケアを得意とする心理士の支援です。彼らは患者の状態に応じて、トラウマにどの程度触れるかを調整し、少しずつ安全に心の整理を進めます。この「さじ加減の巧みさ」が、治療の成否を分けるといっても過言ではありません。

解離性障害と転換性障害は、一見すると全く異なる病気に見えますが、どちらも「ストレスや過去の経験が脳に過剰な負荷を与えた結果、本来できるはずのことができなくなる」という点で共通しています。
治療は特効薬ではなく、ストレスの把握とトラウマの整理が中心です。薬物療法は補助的な役割を果たし、心理士やカウンセラーの支援が回復の大きな助けとなります。
心の問題は目に見えないため誤解されやすいですが、適切に向き合えば改善していく可能性は十分にあります。もし自分や身近な人に思い当たる症状がある場合は、専門機関に相談することを強くおすすめします。