
精神科の入院治療について、「実際にどのようなことを行っているのか」「どのような場合に入院が必要となるのか」「どのような方が入院しているのか」といったご質問をいただくことが少なくありません。精神科医療を利用する方やそのご家族にとって、入院治療は身近でありながらも、内科や外科の入院とは性質が異なるため、具体的なイメージが持ちにくい部分でもあります。ここでは精神科における入院治療の仕組みや意義、実際の患者さんの状況について整理しながら考えていきたいと思います。

まず前提として、精神科医療においては「点滴で症状がすぐに改善する」あるいは「外科手術で根本的に治す」といった治療法は基本的に存在しません。治療の中心は薬物療法であり、外来でも入院でも「内服による治療」が主体となります。
このため、治療そのものだけを切り取れば「入院は必ずしも必要ではないのでは」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。確かに外来通院でも薬を継続して服用できる場合には、それで十分な効果が期待できます。では、なぜ入院治療が必要となるのでしょうか。

内科や外科の入院と大きく異なる点は、精神科にはいくつかの「入院形態」が存在することです。代表的なものは以下の3種類です。
任意入院
本人の意思によって希望し、入院する形態です。内科や外科の入院が基本的にすべて「任意入院」であるのに対し、精神科では全体の半数程度しか任意入院ではありません。
医療保護入院
精神保健指定医が「入院して治療を受ける必要がある」と判断し、ご家族の同意を得て行われる強制入院です。本人の意思によらず入院が開始されます。
措置入院
自傷や他害の危険が著しく高い場合、警察などの関与を経て精神保健指定医が診察し、必要と認めた場合に行われる入院です。社会的な安全確保の観点からも位置づけられています。
このように精神科では、本人が治療の必要性を理解できない場合や、自ら進んで治療を受けられない場合が少なくないため、法律に基づいた強制入院制度が存在します。

では任意入院はどのような目的で行われるのでしょうか。
大きな意義は「生活リズムの立て直し」です。統合失調症やうつ病などの患者さんの中には、昼夜逆転してしまったり、食事や睡眠のリズムが極端に乱れてしまう方が少なくありません。このような状況では、薬を服用していても十分な効果が得られないことが多いのです。
入院生活では、朝起きて夜眠り、1日3食をきちんと摂るという基本的な生活習慣が強制的に整います。また、作業療法やリハビリなどを取り入れる病院もあり、規則正しい生活を送りながら薬物療法を受けることで、回復が大きく前進することがあります。

一方で、強制的な入院が必要となる場合もあります。
例えば、統合失調症の急性期で幻覚や妄想に支配されている場合、本人は病気を自覚できず、治療を受ける必要性を理解できません。また、うつ病で「何をしても無駄だ」と絶望して引きこもり、入院を拒否してしまうこともあります。
このようなときに医療を受けられないままでは、本人にとっても社会にとっても危険が高まります。そこで精神保健指定医が責任をもって「入院が必要」と判断し、場合によっては注射や点滴による治療を行いながら状態を安定させていきます。
強制入院は人権に大きく関わるため、精神保健指定医の資格を持つ医師だけが判断できます。この資格を得るためには、指定医の下での3年間の実務経験と厳密な症例レポート提出が必要であり、決して簡単なものではありません。こうした制度的な裏付けがあるからこそ、強制入院は「やむを得ない必要性がある場合」に限って行われているのです。

実際に精神科病院に入院している方の診断名は、病院ごとに大きく異なります。
内科や外科では、がんや心筋梗塞といった病気の割合は地域ごとに大きな差が出にくいのですが、精神科の場合はそうではありません。時間的な余裕があるため、患者さんや紹介元のクリニックが「その病院の専門性」を考慮して選ぶからです。
例えば、ある病院は統合失調症の治療に強みを持ち、別の病院は依存症の専門病棟を備えている。また児童思春期の治療に力を入れている病院や、高齢者の認知症患者が多い病院もあります。
ただし共通して言えるのは、どの病院でも統合失調症とうつ病の患者さんが全体の半分程度を占めているという点です。残りの半分は依存症、神経症、認知症、若年層の患者など、病院の特色によって異なっています。

では、どのようにして適切な病院を選べばよいのでしょうか。
多くの場合、患者さんやご家族が直接病院を探すのではなく、普段通院しているクリニックの主治医に相談し、紹介を受けるのが一般的です。主治医は患者さんの病状や年齢、生活背景をよく理解していますので、最も適した病院を提案してくれるはずです。
入院は決してゴールではなく、生活リズムを整えたり急性期を安全に乗り越えるためのステップです。その後の外来治療や地域生活につなげていくことこそが大切になります。
精神科の入院治療は、単に薬を処方するだけではなく、
規則正しい生活習慣を取り戻す場
本人が治療を受けられないときに安全に支援する仕組み
として重要な役割を担っています。
入院形態には任意入院・医療保護入院・措置入院があり、それぞれに目的と意義があります。任意入院では生活リズムの回復や薬剤調整を行い、強制入院では本人の安全と社会的な安全を守るために治療が行われます。
また、病院ごとに専門性が異なるため、主治医と相談して適切な病院を選ぶことが大切です。精神科の入院治療は多くの誤解を受けやすい分野ですが、患者さんの回復と生活の安定に欠かせない大切な医療の一つであることを理解していただければと思います。