「新型うつ病」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。名前の通り「新しいタイプのうつ病」と思われがちですが、実はこの呼び方が使われるようになってからすでに10年、20年ほど経っています。そのため本当に“新しい”のかという点については議論もあるのですが、一般的なイメージとは少し違った特徴を持っていることから、こうした呼び方がされてきました。
では、この「新型うつ病」とはどのような状態を指すのでしょうか。そして、どう向き合えばよいのでしょうか。ここではできるだけわかりやすく整理してみたいと思います。

うつ病というのは、「気持ちのエネルギー」が枯渇してしまう状態だと考えると分かりやすいかもしれません。普段、私たちは何かを考えたり、感情を動かしたり、やりたいことに挑戦したりと、心のエネルギーを使いながら生きています。そのエネルギーが極端に減ってしまうのがうつ病です。
代表的な症状は「気分の落ち込み」です。どんなに楽しいことがあっても心から喜べず、毎日が重苦しく感じられてしまう。そして「意欲の低下」も特徴的です。やる気が湧かず、外に出ることすら難しくなってしまうこともあります。

ここからが本題の「新型うつ病」についてです。従来型のうつ病(ここでは「旧型」と呼びます)は、状況にかかわらず心のエネルギーが減ってしまい、好きなことにも手がつかなくなるのが特徴でした。
それに対して新型うつ病の場合は、少し違います。すべての場面でエネルギーが減ってしまうのではなく、「自分が苦手な状況」に置かれたときにだけ、急激に消耗してしまうのです。逆に、好きなことや気楽にできることに取り組むときには、ある程度元気に過ごすことができます。
例えば、職場では強い疲労感を覚えて動けなくなってしまうのに、休日には友達と遊んだり趣味を楽しんだりできる。こうした姿が、周囲から「サボっているのでは?」と誤解されやすいのも、新型うつ病の大きな特徴です。

新型うつ病が特に目立ちやすいのは、就職した後だといわれています。学生の間ももちろん嫌な経験はありますが、基本的には「お金を払って学ぶ立場」なので、自分の裁量で動ける部分もあります。
ところが社会に出ると立場が一変します。今度は「お金をもらう立場」となり、上司からの指示や会社のルールに従わなければなりません。そうした環境は、自分の苦手な状況に直面する機会を大幅に増やします。
特に最初の壁となるのは「上司との関係」です。上司からの指示や叱責の受け止め方によって、エネルギーが急激に減り、「どうしても会社に行きたくない」と感じるようになります。本人としても「通勤は学生時代もしていたのに」「同僚とはそれほど問題がないのに」と混乱しやすく、原因を突き止めにくいのです。
旧型のうつ病では、状況に関係なく気分が沈んでしまうため、「自分が悪いのではないか」と自分を責めやすい傾向があります。
一方、新型うつ病では「特定の状況でだけ」エネルギーを失うため、「この環境が悪い」「あの上司のせいだ」と外に原因を求めやすくなります。そのため周囲からは「文句が多い人」「扱いにくい人」と誤解されてしまうことも少なくありません。
しかし本質的には、誰もが「できるだけ元気に働きたい、生活したい」と思っているはずです。ただ、自分でも気づかないほど苦手な状況があり、そこで心のエネルギーを大量に消費してしまうのです。そのことを本人自身が認めにくいという難しさがあります。
新型うつ病の人は、苦手な状況では強い疲れを感じても、好きな活動なら元気に取り組めることがあります。その姿が「仕事を休んで遊んでいる」と周囲から見えてしまうことがあります。
けれどもこれは決して「怠けている」わけではありません。むしろ、限られたエネルギーを何とか保ちながら日常を送っている証拠なのです。この点を理解してもらえるかどうかで、本人のつらさは大きく変わります。
では、新型うつ病と向き合うにはどんな方法があるのでしょうか。
まず、薬で「苦手な状況そのものを楽しく感じられるようにする」ことは難しいと考えられます。ただし、そこから派生して起こる「眠れない」「イライラする」「不安が強い」といった症状には、薬が助けになることもあります。
根本的な部分に関しては、「自分にとってどんな状況が苦手なのか」を整理し、その場面ごとに具体的な対処法を見つけていくことが大切です。たとえば、上司との関係がつらいなら、直接やり取りするのではなく第三者を挟む。あるいは、同じような場面が起きたときにどんな言葉を選ぶか、あらかじめパターンを決めておく。こうした工夫は一人では難しいことも多いため、専門家との対話(カウンセリング)が大きな助けになります。
カウンセリングと聞くと、「理論を学んで心を整える」と思われる方もいるかもしれません。しかし、理論を先に知っただけでは、実際の場面では役立てにくいことがあります。
一方で「困っている状況を一つひとつ取り上げて、その場でどう対処するかを一緒に考える」という形で積み重ねていくと、すぐに役立ちます。そして振り返りながら共通する考え方を見つけていくことで、自然と自分なりの「理論」が身についていくのです。こうした実践的なアプローチは、途中で中断することがあっても「少なくとも何かは持ち帰れる」ため、無駄になりにくい点も特徴です。
新型うつ病の人は、自分でも「なぜかこの状況になると耐えられない」ということを認めにくい場合があります。そのために「周囲が悪い」と怒りを感じたり、カウンセラーや医師に対して不満をぶつけたりすることもあるでしょう。
ですが、これは決して「わがまま」なのではありません。心のエネルギーの減り方に大きな偏りがあるために起こる自然な反応なのです。だからこそ、周囲が「サボっている」「文句ばかり」と決めつけるのではなく、苦手な状況で本当に消耗していることを理解することが大切です。

新型うつ病とは、「苦手な状況に置かれたときにだけ心のエネルギーが激しく減ってしまう」タイプのうつ病です。好きなことには取り組めるため、周囲からは誤解されやすく、本人も原因を認めにくいという難しさがあります。
薬が役立つ部分もありますが、根本的には「どんな場面でエネルギーを消耗するのか」を整理し、具体的な対応策を考えることが欠かせません。カウンセリングや周囲の理解を通じて、一つひとつ解決策を積み重ねていくことが、回復への大切な道のりとなります。