
精神科を受診する方にとって、どのような医師にかかるかは治療の方向性や安心感に直結する大きな問題です。薬の選び方や診断の正確さはもちろん大切ですが、医師の人柄や姿勢も患者さんの気持ちに大きな影響を与えます。では、「よい精神科の医師」とはどのような医師なのでしょうか。
本記事では、精神科医を評価するための3つの視点を取り上げ、それぞれについて詳しく考えていきたいと思います。

最初の条件は、患者さんに真剣に向き合い、誠実な態度を示してくれる医師です。これは、最もわかりやすく、かつ多くの患者さんが重視するポイントでしょう。
診察時にきちんと時間を取り、患者さんの話を傾聴してくれるかどうか。目の前の人の悩みや苦しみに耳を傾けようとする姿勢は、患者さんに「安心して話せる」という信頼感を与えます。
さらに、精神科以外の問題にどう対応するかも重要です。例えば、患者さんが「最近血圧が高くて、健康診断で指摘されました」と相談したとします。そのとき、もし医師が「それは内科に行ってください」とだけ答えて終わらせてしまうなら、全体的な健康を考えているとは言えません。逆に、「血圧が高いのですね。それなら薬の影響や生活習慣も考えられますし、一度内科で詳しく調べてもらうと安心ですよ」といった反応であれば、患者さんの健康を包括的に考えている姿勢が伝わってきます。
つまり、精神科医としての専門外の相談に対しても、誠実に受け止め、適切な方向へ導いてくれる医師は「真摯に患者と向き合っている」と言えるでしょう。

次に大切なのは、医学的なチェックを怠らない「細かさ」です。精神科では薬物療法が中心になることが多いのですが、薬は脳だけでなく身体全体に影響を及ぼします。
例えば、糖尿病や脂質異常、肝機能の障害などは、血液検査をしなければ気づけません。精神的な症状だけに注目してしまうと、こうした身体の問題を見落としてしまい、結果的に患者さんの健康を損なう可能性があります。
特に注意が必要なのが、血中濃度を測定すべき薬を投与する場合です。バルプロ酸(デパケン)やカルバマゼピン(テグレトール)といった気分安定薬は、効果と副作用のバランスを保つために定期的な血中濃度のチェックが欠かせません。また、抗精神病薬を使う場合には耐糖能の低下(糖尿病のリスク)を確認する必要があります。
こうした検査は法律上の義務ではないにせよ、「努力義務」とされており、望ましい診療の一環です。半年から1年に一度は採血を行い、薬が体に過度な負担を与えていないか確認するのが理想です。
したがって、診察の中で「そろそろ採血をしましょう」と医師の側から提案してくれるような、細やかなチェックを怠らない医師は信頼できると言えるでしょう。

最後に挙げたいのは、医師としての「腕」、すなわち患者さんの本質を見抜く力です。これは患者さんにとっては判断が難しい部分ですが、非常に重要です。
同じ患者さんを複数の医師が診ることがあります。その際、カルテを読み比べると「この先生は自分が気づかなかった点に注目している」「この薬の選び方は鋭い」と感じることがあります。患者さんの問題を核心からとらえ、的確に治療法を選択できる医師は、やはり「腕がある医師」と言えるでしょう。
しかし、この力は患者さん自身からは見えにくいものです。例えば、ぶっきらぼうで話をあまり聞いてくれない医師が、実際には非常に的確な薬を処方していることもあります。逆に、感じがよく丁寧に接してくれる医師でも、治療の核心に迫れていない場合もあります。
そのため、患者さんが「この先生はあまり愛想がないけれど、出してくれる薬が合う」「短い診察でも核心をついたことを言ってくれる」と感じるなら、その医師は本質を見抜く力を持っている可能性が高いのです。

ここまで3つの条件を挙げましたが、現実的にはこれらすべてを兼ね備えた医師は多くありません。感じが良くても細やかさに欠ける医師もいれば、鋭い診断力があっても患者さんからの評判は芳しくない医師もいます。
それでも、精神科にかかる立場になったとき、私が最も重視するのは「本質を見抜く力=腕」だと思います。感じが良いことや細やかさは確かに大切ですが、治療そのものの質を決定づけるのはやはり医師の診断力・洞察力だからです。

よい精神科医を見極めるための3つの視点を改めて整理します。
・患者の話をよく聞き、精神科以外の問題にも誠実に対応する。
・採血や血中濃度測定を行い、薬の副作用や身体への影響を適切に管理する。
・患者の核心的な問題を把握し、適切な治療方針を導ける。
この3つすべてを備えた医師は理想ですが、現実には揃っているとは限りません。そのため、感じの良さや細やかさだけで判断せず、たとえ不愛想でも「出される薬が合う」「核心を突いた言葉をもらえる」ような医師に出会えた場合には、その医師との関係を大切に続けることをお勧めします。
精神科での治療は長期にわたることが多く、医師との相性も重要です。しかし最終的には、患者さんの回復に直結する「本質を見抜く力」を持つ医師こそ、真に信頼できる「よい精神科医」であると考えます。