こんにちは。今日は「複雑性PTSD(Complex PTSD)」についてお話ししたいと思います。
名前は聞いたことがあるけれど、実際にどのようなものなのか、普通のPTSDと何が違うのか、分かりにくいと感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、複雑性PTSDの特徴や境界性パーソナリティ障害との違い、治療に向き合う姿勢などを、できるだけわかりやすくお伝えします。

PTSDは、大きなショック体験――例えば事故、災害、暴力など――をきっかけに生じる心の障害です。強い恐怖体験が心に刻まれ、時間が経っても突然思い出したり(フラッシュバック)、不安や緊張に苦しめられることがあります。
一方で複雑性PTSDは、トラウマが単なる「つらい記憶」として残るだけでなく、その人の
考え方や性格の傾向そのものにまで影響を与えてしまうことが特徴です。
例えば、人を信じられなくなったり、自分に対して強い否定感を抱くようになったりと、
長期的に「人となり」に変化を及ぼすケースが少なくありません。
複雑性PTSDは、境界性パーソナリティ障害(BPD)と似ている点があり、混同されやすいこともあります。
どちらも「生まれつき」ではなく、環境や体験の積み重ねから形づくられるという点で共通していますが、原因のあり方に違いがあるのです。

ある方が成人後に大きな被害体験をしたとします。
その記憶が断片的によみがえり(フラッシュバック)、強い恐怖や不安に襲われる。
それが長く続くうちに「自分は価値がない」「誰にも頼れない」と考えるようになり、以前とは違った性格傾向が前面に出てしまう。
この状態が「複雑性PTSD」の一例といえるでしょう。
複雑性PTSDの治療が難しいのは、最終的には「つらい出来事そのもの」と向き合わざるを得ないからです。
ただし、準備が整っていない段階で無理に過去を掘り起こすと、かえって抑うつや不安が強まり、危険な状態になることがあります。
そのため、治療初期にはトラウマそのものには触れず、まずは現在の生活を安定させることを重視します。

気分の落ち込みや不安発作が強い場合は、抗うつ薬や抗不安薬が使われることがあります。
最近では副作用が少なく、神経伝達物質に幅広く作用する新しい薬も登場しており、長期的な治療を支える役割を果たしています。
認知行動療法や、対人関係の工夫を学ぶアサーション・トレーニングなどが行われることもあります。ただし、複雑性PTSDは根本原因となる体験があるため、効果がゆっくりしか出ないことも少なくありません。それでも日常生活を立て直すうえで大切な一歩になります。
長い時間をかけて信頼関係を築き、本人が「もう少し向き合ってもいい」と思えるタイミングが来たときに、少しずつトラウマの出来事を整理していきます。
この準備期間は人によって大きく異なり、数か月の方もいれば、10年以上経ってから取り組む方もいます。
複雑性PTSDと共に生活していくには、専門的な治療だけでなく、日常の過ごし方も重要です。
こうした工夫が、心を守る土台になります。

複雑性PTSDは、心の深い部分に影響を与えるため、回復には時間がかかります。
けれども、焦らず一歩ずつ取り組んでいけば、少しずつ生きやすさを取り戻すことができます。
「つらい体験を抱えたままでも、治療や支援を受けながら生きていける」ということを、まず知っていただきたいと思います。
そしてもし必要だと感じたら、専門の医療機関につながることを検討してみてください。