知的障害、精神遅滞について

知的なハンディとともに生きるということ

私たちの社会には、さまざまな個性や違いを持つ人が暮らしています。その中で「知的なハンディ」を持つ人について、少し整理して考えてみたいと思います。

まず言葉についてです。昔は「精神遅滞」という言葉がよく使われていましたが、今ではあまり使われなくなっています。代わりに「知的障害」という表現が広く使われています。「障害者手帳」や福祉サービスを利用するときの区分としても「知的障害」という言葉が使われているため、こちらの方が身近に感じる方も多いのではないでしょうか。

知的なハンディは、いわゆる「程度の差」が大きい特徴を持っています。人によっては日常生活にほとんど困らない軽いケースもあれば、日常の多くの場面で周りの助けが必要になる重いケースもあります。つまり白か黒かではなく、幅のある「グラデーション」としてとらえるとわかりやすいかもしれません。

どのくらいの力を持っているか

どのくらいの力を持っているか

知的な力はよく「知能指数(IQ)」という形で表されます。これはテストで測るものですが、大ざっぱに言うと平均を100として考えます。その数値が70を下回ると「少し苦手さがある」とされ、さらに50以下、35以下と下がっていくにつれて日常生活に必要なサポートの度合いが大きくなります。

数値だけではピンと来ないかもしれません。イメージとしては次のように考えてみてください。

  • 70未満くらいだと、小学校高学年くらいの理解力
  • 50未満だと、小学校低学年くらい
  • 35未満だと、幼稚園児くらい

もちろん一人ひとり違いがありますので単純に当てはめることはできませんが、社会生活の中でどのくらいのことが理解できるかを想像すると、現実的な難しさが伝わると思います。

仕事や生活で感じる壁

仕事や生活で感じる壁

では、知的なハンディがあると、どのような場面で困難を感じるのでしょうか。

たとえばアルバイトを考えてみましょう。最近のコンビニエンスストアでは、レジ打ちだけでなく宅配便の受付やチケット発券、公共料金の支払い対応など、覚えることがたくさんあります。もし小学生の高学年くらいの理解力で、初めてそうした仕事に挑戦したらどうなるでしょう。おそらく「覚えることが多すぎてついていけない」と感じてしまうのではないでしょうか。

つまり知的な力は、学業や就職、社会生活を送るうえでの「基盤」となる大切な部分です。注意力や人との関わり方のクセなどは工夫次第で補えることもありますが、基盤となる理解力そのものが弱い場合には、同じ方法ではうまくいかないことが多いのです。

大切なのは「自分に合った環境」

では、どうすれば知的なハンディを持ちながらも安心して生活できるのでしょうか。

一番大切なのは「自分に合った集団に所属すること」です。たとえば学校であれば、普通学級にいることで本人が強い劣等感を抱いたり、失敗を繰り返して心を傷つけてしまうことがあります。これを続けてしまうと、もともとの困難さに加えて「心の不調」を起こしてしまうことがあります。これを「二次的な問題」と呼びます。具体的には、不安が強くなったり、気分が落ち込みやすくなったり、眠れなくなったりすることです。

反対に、同じような力を持った仲間の中にいるとどうでしょう。周りの人と同じペースで生活できるので、必要以上に比較されることもなく、自然と「自分らしく」過ごすことができます。大切なのは、周囲の基準に無理やり合わせるのではなく、自分に合った場所で安心して暮らせることなのです。

「井の中の蛙」でいい

「井の中の蛙」でいい

ここで一つことわざを取り上げたいと思います。「井の中の蛙大海を知らず」という言葉があります。本来は「狭い世界しか知らないこと」をからかう意味で使われますが、私はこれを前向きにとらえたいのです。

それぞれが自分に合った世界、自分が安心して生きられる環境で過ごすことは、決して悪いことではありません。むしろ「その井戸の中で自分らしく暮らす」ことこそ、幸せにつながるのではないでしょうか。

もちろん、高い能力を持つ人は大海に出て大いに活躍すればいいと思います。しかし、そうでない人も、自分に合った井戸の中で安心して暮らせることがとても大切なのです。

軽いハンディを持つ人の悩み

重いハンディを持つ人の場合は、周囲からも支援が必要だと理解されやすく、支援制度を活用しやすい面があります。ところが軽いケースや「境界」と呼ばれるグレーゾーンの人たちは、外見や会話だけでは違いが分かりにくいことが多いのです。

たとえば小学校高学年くらいの理解力を持つ人が、成人として働こうとしたとき、周囲からは「大人としての対応」を期待されます。しかし実際には、指示をうまく理解できなかったり、状況に応じた判断が難しかったりします。すると「やる気がない」「サボっている」と誤解され、つらい思いをしてしまうのです。

こうした状況から心の不調を抱えてしまう人も少なくありません。周囲からは「うつ病」や「不安症」と見えるのですが、その根本には知的なハンディが隠れている場合もあります。

支援を受けるためにできること

支援を受けるためにできること

では、自分や家族がそのような状況にある場合、どうすればよいのでしょうか。

まずは専門の相談機関やクリニックで、自分の理解力や得意・不得意を確認してみることをお勧めします。客観的な検査を受けることで「自分はどの程度の力を持っているのか」を把握できます。その結果をもとに、福祉サービスや支援制度を利用したり、就職の際に「障害者雇用枠」を活用したりすることができます。

大切なのは「自分に合った集団を選ぶこと」。そうすることで、必要以上に無理をせず、心の不調を防ぐことができます。

幸せに暮らすために

知的なハンディは、残念ながら「完全に治す」という発想は難しいものです。しかしそれは「幸せに暮らせない」ということではありません。むしろ大切なのは、二次的な心の不調を防ぎ、自分に合った場所で安心して生活することです。

支援が整った環境にいれば、重いハンディを持つ人でも、多くの場合は周囲と同じように笑顔で生活できます。逆に軽いハンディの場合は見過ごされやすく、本人も気づかないまま無理をしてしまい、かえって心を壊してしまうことがあります。だからこそ「自分に合った井戸を見つける」ことがとても重要なのです。

まとめ

知的なハンディを持つ人にとって、最も大切なのは「自分に合った環境で暮らすこと」です。社会は一人ひとり違った人が集まって成り立っています。優れた能力を持つ人だけが幸せになれる社会ではなく、さまざまな人がそれぞれの場所で安心して暮らせる社会こそ、本当に豊かな社会だと思います。

そしてもし心の不調を感じたら、一人で抱え込まずに専門機関に相談することをお勧めします。サポートを受けながら、自分らしく生きていける道を探していきましょう。