私たちが日常生活の中で手や指を自在に動かすことができるのは、骨と筋肉、そしてそれらをつなぐ「腱(けん)」の働きによるものです。さらに、その腱を守り、スムーズに動かすために欠かせない存在が「腱鞘(けんしょう)」です。
本記事では、腱鞘の基本的な構造と役割、そして腱鞘に関連する代表的な病気である「腱鞘炎」、特に有名な「ドケルバン病」や「バネ指」について詳しくご紹介します。

まず、腱の働きについて簡単に確認しましょう。腱は筋肉と骨をつなぐ丈夫な組織で、筋肉が収縮する力を骨に伝える役割を担っています。手の指を曲げたり伸ばしたりできるのも、前腕から伸びる腱が指先まで走っているからです。
しかし、腱が骨の表面をただ滑るだけでは、動きが不安定になったり摩擦で損傷したりしてしまいます。そこで重要な役割を果たすのが「腱鞘」です。腱鞘は腱を包み込むトンネルのような構造をしており、腱が滑らかに動ける環境をつくっています。腱鞘には大きく分けて2種類が存在します。
腱の周囲を包み込み、内部を潤滑させるのが「滑膜性腱鞘」です。ここから分泌される滑液が腱の動きをスムーズにし、摩擦を軽減します。イメージとしては、氷の上をスケート靴が滑るようなもので、摩擦を最小限に抑えながら腱を上下に動かすことを可能にしています。
一方、「靭帯性腱鞘」は、腱を骨の表面にしっかりと押さえつけるバンドのような役割を担っています。これがなければ、腱は筋肉の収縮によって骨から浮き上がってしまい、指を正確に曲げたり伸ばしたりすることが難しくなります。靭帯性腱鞘は指の根元から先端にかけて複数存在し、それぞれが腱を正しい位置に保つために機能しています。

腱鞘は腱の動きを助ける大切な存在ですが、酷使されると炎症を起こしてしまうことがあります。これが「腱鞘炎」です。特に靭帯性腱鞘の部分で炎症が生じやすく、腱と腱鞘の間に摩擦が生じることで痛みや腫れが出現します。
典型的な症状は以下の通りです。
これらの症状は日常生活に支障をきたすことが多く、特に手作業をよく行う人や育児・家事で手を酷使する人に多くみられます。
腱鞘炎の中でもよく知られているのが「ドケルバン病」です。これは親指の付け根付近にある腱鞘で炎症が起こる病気です。
親指を反らしたときに、手首の甲側に浮き上がって見える2本の腱があります。これは「短母指伸筋腱」と「長母指外転筋腱」であり、この2本を覆う靭帯性腱鞘が炎症を起こすと、強い痛みが生じます。
ドケルバン病は特に手を頻繁に使う人に多くみられます。
これらの動作は親指や手首に負担をかけやすく、炎症の原因となります。
腱鞘炎のもうひとつの代表的な疾患が「バネ指」です。これは指の付け根の靭帯性腱鞘で炎症が起こりやすい病気で、腱の通り道が狭くなることで引っかかりが生じます。
このため「弾発指」とも呼ばれ、特に手をよく使う仕事や家事をする人に多くみられます。

腱鞘炎は一度発症すると慢性化しやすいため、日常生活の中での工夫が大切です。
腱鞘は、腱が滑らかに動けるようにする「滑膜性腱鞘」と、腱を骨に固定して安定させる「靭帯性腱鞘」という2種類の構造から成り立っています。私たちが手や指を自在に動かせるのは、この腱鞘の働きがあってこそです。
しかし、使いすぎや繰り返しの動作によって腱鞘が炎症を起こすと、腱鞘炎となり、痛みや引っかかり感といった症状が現れます。特にドケルバン病やバネ指は日常生活に支障をきたすことが多いため、早めのケアや予防が大切です。
日頃から手を労わり、適度に休ませることが、腱鞘炎を防ぐための第一歩です。もし症状が長引く場合には、専門の医療機関で相談してみることをおすすめします。