脱臼と亜脱臼【医師によるわかりやすい解説】

脱臼と亜脱臼

関節の中でも「肩関節」は、私たちが日常生活を送るうえで非常に重要な役割を果たしています。
腕を自由自在に動かし、スポーツや仕事、日常の細かな動作を可能にしているのが肩関節の働きです。

ところが、その自由度の高さゆえに、肩関節は不安定になりやすく、「脱臼」や「亜脱臼」といったトラブルを起こしやすい関節でもあります。

本記事では、肩関節の構造から脱臼・亜脱臼の違い、発生しやすい要因、さらに
「柔軟性とスポーツ能力」の関係まで、丁寧に解説していきます。

肩関節の基本構造

肩関節の基本構造

まず、肩関節を理解するためには、その解剖学的な構造を知ることが大切です。
肩関節は、上腕骨の「骨頭」と呼ばれる丸い部分が、肩甲骨の「関節窩」という受け皿にはまり込むことで形成されています。

この構造だけを見ると、骨と骨の接触面は比較的狭く、安定性はそれほど高くありません。

そのため、肩関節の安定を保つには「関節包」や「靭帯」「腱板(ローテーターカフ)」といった周囲の軟部組織が大きな役割を担っています。

  • 上腕骨骨頭:肩の丸みをつくる部分。関節運動の中心。
  • 関節窩(肩甲骨の一部):受け皿のように上腕骨を支えるが浅い構造。
  • 大結節・小結節:上腕骨の突起部分で、筋肉が付着して動きを補助する。
  • 関節包:関節を包み込み、安定性を与える袋状の組織。

肩関節は「可動域が広い代わりに不安定」という特徴を持つ関節であり、これが脱臼や亜脱臼が起こりやすい理由でもあります。

脱臼とは何か?

脱臼(だっきゅう)とは、関節を構成する骨の位置が完全にずれてしまい、関節面同士の接触が失われた状態を指します。

肩関節の場合は、上腕骨頭が関節窩から外れてしまい、本来の位置に収まらなくなります。
このとき、周囲の関節包や靭帯が骨からはがれることが多く、強い痛みや運動制限が生じます。

特に肩関節の脱臼は、次のような特徴を持っています。

  1. 反復性肩関節脱臼
     肩を一度脱臼すると、その後も繰り返し脱臼しやすくなることが知られています。
    統計的には、初回脱臼後のおよそ50~70%で再発が見られるとされています。
  2. 前方脱臼が大半
     肩関節の脱臼のうち、約80%以上が「前方脱臼」と呼ばれるタイプです。
    これは、腕が外転し外旋した状態、いわゆる「脱臼ポーズ」をとった際に発生しやすいのが特徴です。
  3. 日常生活やスポーツでの発生
     転倒やスポーツ時の接触、あるいは不自然な姿勢での転倒などがきっかけで起こることが多く、特に若年者やスポーツ選手に多く見られます。

脱臼は一度起こすと関節の安定性が低下し、再発のリスクが高まります。
そのため、適切な治療とリハビリテーションが重要です。

亜脱臼とは何か?

一方で、**亜脱臼(あだっきゅう)**は「骨が一瞬ずれても、すぐに元に戻る状態」を指します。
完全に関節面が外れる脱臼とは異なり、短時間で自然に整復されるため、見た目には大きな変化がない場合もあります。
しかし、関節にとっては繰り返しのストレスがかかるため、軽視することはできません。

亜脱臼のメカニズムは以下の通りです。

  1. 関節包がはがれるのではない
     脱臼とは違い、亜脱臼では関節包や靭帯が骨から剥がれることはありません。
  2. 関節包が伸びてしまう
     繰り返しの負荷や生まれつきの体質によって、関節包が伸びやすくなり、一時的に骨がずれやすくなるのです。
  3. 生まれつき柔らかい関節
     もともと伸縮性に富んだ関節包を持っている人は、亜脱臼が起こりやすい傾向があります。

つまり、亜脱臼は「関節包が過度に柔らかい」ことが背景にあり、柔軟性の高い人ほど生じやすい現象といえます。

柔軟性と脱臼・亜脱臼の関係

柔軟性と脱臼・亜脱臼の関係

ここで、「関節が柔らかい」という特性について考えてみましょう。
柔らかい関節包は「脱臼や亜脱臼が起こりやすい」と聞くと、体の欠陥のように思えるかもしれません。しかし、必ずしもそうではありません。

柔軟性が高い関節は、スポーツの分野においては大きなアドバンテージとなる場合があります。
たとえば、体操選手や新体操選手、バレエダンサーなどは関節の柔軟性が不可欠です。
投球動作のように大きな可動域を必要とする競技においても、柔軟な関節は天賦の才能といえるでしょう。

したがって、「柔軟性がある=欠陥」ではなく、「柔軟性がある=能力」ととらえることが大切です。
ただし、その分だけ脱臼や亜脱臼が起きやすいリスクがあるため、予防的なトレーニングや周囲の筋肉を強化することが重要です。

脱臼・亜脱臼への対応と予防

脱臼・亜脱臼への対応と予防

では、脱臼や亜脱臼を起こさないため、あるいは繰り返さないためにはどうすればよいのでしょうか。

  1. 初回脱臼後はしっかりと治療を受ける
     脱臼を放置したり自己流で整復すると、関節包や靭帯の損傷が回復せず、再発リスクが高まります。必ず整形外科で正しい処置を受けましょう。
  2. リハビリテーションの重要性
     周囲の筋肉、特にローテーターカフを鍛えることで、関節の安定性が高まります。
    筋力トレーニングとストレッチをバランスよく取り入れることが大切です。
  3. 柔軟性と安定性の両立
     柔らかい関節を持つ人は、可動域を広げるストレッチだけでなく、安定性を補う筋トレが必要です。
    逆に硬い関節を持つ人は、ストレッチで柔軟性を高めることも必要でしょう。
  4. スポーツ時の注意
     特にコンタクトスポーツや投球動作では脱臼リスクが高いため、フォームの見直しや過度な負荷を避ける工夫が求められます。

まとめ

脱臼と亜脱臼は、肩関節で特に多く見られるトラブルです。

  • 脱臼は骨が完全に外れ、関節包が損傷を伴うことが多い。
  • 亜脱臼は一瞬ずれるが自然に戻り、関節包が伸びやすいことが背景にある。
  • 反復性脱臼柔軟性の高い関節は、再発リスクと同時にスポーツ能力の高さを意味する場合もある。

大切なのは、「体質を欠陥ととらえないこと」「リスクを理解したうえで予防策をとること」です。
正しい知識を持ち、日常生活やスポーツにおいて肩関節を大切にしていくことで、脱臼や亜脱臼を防ぎ、長く健康な生活を送ることができるでしょう。