本日のテーマは「むちうち」です。
「むちうち」という言葉は、多くの方が耳にしたことがあると思います。交通事故やスポーツ外傷の場面でよく使われる一般的な呼び方ですが、医学的には「頚椎捻挫(けいついねんざ)」あるいは「外傷性頚部症候群」と呼ばれます。いずれも首の周囲に外から大きな力が加わることで起こる障害の総称であり、日常的に用いられる「むちうち」と同じ意味を持っています。
今回は、むちうちの症状や原因、医学的な検査でわかること、さらに現代医学が抱える課題について、できるだけ丁寧に解説していきたいと思います。

むちうちの症状は実に多彩で、人によって現れ方も異なります。代表的なものを挙げると以下の通りです。
このように、首そのものの痛みだけでなく、神経症状や自律神経症状まで伴うことがあるのがむちうちの特徴です。症状がすべて同時に出る人もいれば、首の痛みと肩こりだけといった一部の症状しか出ない人もいます。そのため、「本当にむちうちなのか?」と疑われることもありますが、むちうちにはこのように幅広い症状があることをまず理解しておく必要があります。
では、むちうちはどのような状況で起こるのでしょうか。

最も多い原因がこれです。車を運転中、後方から突然強い衝撃を受けると、首は大きく後ろに反らされ(背屈)、次の瞬間には急停車の反動で強く前に曲げられます(屈曲)。この「前後に大きく振られる」動作が、一瞬の間に強制的に起こることがむちうちの直接的な原因となります。
ラグビーやアメリカンフットボールなど、激しいコンタクトスポーツでも起こることがあります。タックルや転倒で予期しない衝撃を受けた際、首に大きな負荷がかかります。

高所からの落下や転倒でも、首に衝撃が加わることでむちうちが生じる場合があります。
重要なのは「予期していたかどうか」という点です。人は衝撃を予測できると反射的に筋肉を固めて防御姿勢をとります。その結果、首へのダメージはある程度軽減されます。ところが、不意の衝撃では防御できず、首が思いがけない方向に大きくねじれたり曲がったりしてしまい、むちうちが起こりやすくなるのです。
むちうちでは、首や神経にどのような異常が起きているのでしょうか。実は、これについては現代医学でも十分に解明されていません。

整形外科を受診すると、まず行われるのがレントゲン検査です。レントゲンでは骨の形やズレ、骨折の有無を確認できます。しかし、むちうちの場合、多くの人で骨のズレや変形は見つかりません。

MRIでは神経や脊髄、筋肉、靭帯などの軟部組織も観察できます。特に神経の形や質(材質)が分かることが大きな特徴です。しかし、むちうちの場合、神経の形が変わっているわけでもなく、材質が変化(変性)しているわけでもありません。つまり、「画像上は正常」と判断されてしまうケースが非常に多いのです。
「レントゲンで骨が正常」「MRIで神経も正常」――では、むちうちでは何も起きていないのでしょうか?
答えは「そうではない」です。確かに検査では異常が映らないことが多いのですが、それでも実際に患者さんは首の痛みやしびれ、頭痛といった症状に苦しんでいます。
例えて言うなら、「自動ドア」を想像してください。ドアが閉まっている状態を見ても、その1時間の間に誰かが出入りしたかどうかは分かりません。同じように、むちうちも事故の瞬間には首や神経に大きな力が加わっているのですが、検査を行う時点では外見上も画像上も元に戻ってしまっているのです。そのため、「異常があるはずなのに見つからない」という状況が生じるのです。
むちうちが難しいのは、次の3点に集約されます。
症状が出ている以上、全くの「正常」ではないはずです。
レントゲンやMRIでも決定的な証拠は得られないのが現状です。
どの部分にどのようなアプローチをすれば良いか、医学的に明確な指針が立てにくいのです。
むちうちは「首の捻挫」や「外傷性頚部症候群」と呼ばれる外傷であり、交通事故やスポーツなど予期せぬ衝撃によって発生します。症状は首の痛みから神経症状、自律神経症状まで幅広く、人によって大きく異なります。
最大の問題は、現代医学の検査をもってしても異常が捉えにくいことです。レントゲンでは骨のズレが見つからず、MRIでも神経の変化は確認できません。しかし、症状が存在する以上、首や神経に何らかの異常が起きていることは間違いないと考えられています。
つまり、むちうちとは「存在するのに、医学的に証明しにくい」非常に難しい疾患なのです。診断や治療に苦慮することも多く、患者さんにとっても医師にとっても頭を悩ませる症状であると言えるでしょう。