はじめに
本日は、比較的よく見られる手の病気である「ドケルバン病」について解説いたします。名前を耳にすると少し難しそうに感じるかもしれませんが、実際には親指に起こる腱鞘炎の一種であり、日常生活の中でも発症しやすい病気です。スマートフォンの操作や育児、パソコン作業などで親指や手首を酷使することが原因となることが多く、幅広い世代に見られます。本記事では、その仕組みや症状、診断法、そして治療方法についてできるだけわかりやすくご説明していきます。

まず、親指の病気を理解するためには、手の構造を少し知っておくことが大切です。手には非常に多くの骨が連なっており、それらが関節を形成することで、指を曲げたり伸ばしたりする複雑な動きを可能にしています。
特に親指は、他の4本の指とは異なり、曲げ伸ばしだけでなく上下左右、さらには回転のような多方向の動きを行うことができます。これは親指に3つの関節があるためです。指先の第一関節、中ほどの第二関節、そして付け根にあるCM関節と呼ばれる第三関節。この関節の形状や構造により、親指は自由度の高い動きを実現しているのです。
さらに、これらの動きを支えているのが筋肉と腱です。筋肉が収縮すると、その力が腱を通じて骨に伝わり、指が動く仕組みになっています。親指は特に多様な動きが可能であるため、複数の筋肉と腱が関わっています。今回のテーマであるドケルバン病は、その中でも「長母指外転筋」と「短母指伸筋」という2つの筋肉の腱に関係しています。
腱は筋肉の力を骨に伝える丈夫な線維組織ですが、スムーズに動くためには「腱鞘」と呼ばれるトンネルの中を通っています。腱鞘は腱を包み込み、摩擦を減らす役割を果たしています。特に腱鞘には、柔らかい「滑膜性腱鞘」と硬い「靭帯性腱鞘」の二重構造があり、この仕組みによって腱は抵抗なく滑らかに動くことができます。
この構造を身近なもので例えるなら、腱を足に、滑膜性腱鞘をストッキングに、そして靭帯性腱鞘をブーツに置き換えるとわかりやすいでしょう。ストッキングとブーツに守られた足がスムーズに動くように、腱も腱鞘によって安定した動きを保っています。
ただし、腱鞘には「腱が骨から浮き上がらないように押さえる」という重要な働きもあります。もし腱鞘がなければ、指を曲げるときに腱が浮き上がってしまい、正常な動きができなくなってしまうのです。

さて、本題のドケルバン病ですが、これは親指側の手首付近にある腱鞘で炎症が起こる病気です。具体的には、親指を外側に動かす「長母指外転筋」と、親指を上に反らす「短母指伸筋」の腱が同じトンネルを通っている部分に炎症が生じます。この腱鞘が腫れて狭くなり、腱の動きが妨げられることで痛みが発生するのです。
症状としては、親指の付け根から手首にかけての痛みや腫れが代表的です。特に物を握ったり、親指を大きく動かすときに強く痛みを感じることがあります。赤く腫れたり、押すと強い痛みが走ることも少なくありません。
ドケルバン病かどうかを簡単に確認する方法として「フィンケルシュタインテスト」があります。方法は次の通りです。
親指を手のひらに入れ込むようにして握り拳をつくる
その状態で手首を小指側に曲げる
このとき、親指の付け根から手首にかけて強い痛みが走れば、ドケルバン病の可能性が高いと考えられます。もちろん、最終的な診断は医師による診察が必要ですが、目安として覚えておくとよいでしょう。
親指の付け根に痛みを生じる病気として「母指CM関節症」もあります。これは関節そのものに老化や変形が生じる病気で、骨の痛みが中心です。一方、ドケルバン病は腱鞘に炎症が起こるため、原因も異なります。痛みの部位も微妙に異なり、CM関節症は親指の根元の関節に近い部分、ドケルバン病はやや手首寄りに痛みを感じるという特徴があります。

ドケルバン病の治療は大きく分けて「保存的治療」と「手術」に分かれます。
保存的治療
まず第一に行われるのは、手術を伴わない保存的治療です。基本は「安静」にすること。親指の使用を減らし、炎症を鎮めることが最も重要です。ただし、日常生活で親指をまったく使わないことは難しいため、固定用の装具を使うこともあります。親指を動かせないようにすることで強制的に安静を保ち、炎症の回復を促します。
加えて、温熱療法やストレッチ、低周波治療といったリハビリも有効です。また、腱鞘に直接ステロイド注射や局所麻酔薬を注入する方法も行われます。これにより、8~9割の患者さんは症状が改善するとされています。
手術
しかし、一部の患者さんでは保存的治療を続けてもなかなか症状が改善しない場合があります。炎症によって腱鞘が硬く狭くなり、腱を強く締め付けてしまうためです。そのような場合には「腱鞘切開術」という小さな手術が行われます。これは腱鞘を縦に切開し、腱が自由に動けるようにする方法で、日帰りで可能な比較的負担の少ない手術です。
ドケルバン病は、親指の使いすぎによって生じる腱鞘炎の一種です。腱そのものが悪くなるのではなく、それを包んでいる腱鞘に炎症が起こることが原因です。
親指の付け根から手首にかけて痛みが出る
フィンケルシュタインテストで痛みが強まる
保存的治療で大半は改善するが、難治例では腱鞘切開術を行う
このような特徴を押さえておけば、早めに対応し、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。親指は日常のあらゆる動作に関わる大切な部位です。違和感や痛みを感じたら無理をせず、医療機関に相談することをおすすめします。