近年、スポーツ選手やトレーニング愛好者の間で「肩のインナーマッスルを鍛える」という言葉がよく使われるようになりました。特に、ゴムチューブを用いた内旋・外旋運動は非常に有名で、写真や動画で目にする機会も多いでしょう。しかし、多くの人が「インナーマッスルを大きくする」「筋肉をつける」と誤解したままトレーニングに励んでいるのも事実です。
本記事では、肩のインナーマッスル、すなわち腱板(けんばん)の正しい役割や、筋トレの本来の目的について丁寧に解説していきます。

まず、肩のインナーマッスルについて整理しましょう。肩周囲の筋肉は、大きく「アウターマッスル」と「インナーマッスル」に分けられます。
腱板は肩関節の奥深くに存在し、大きな力を生み出すのではなく「肩関節の安定性を保ち、動きを微調整する」という役割を担っています。

肩の動きを理解するうえで、アウターマッスルとインナーマッスルの連携は欠かせません。例え話をすると分かりやすいでしょう。
巨大なタンカー(大型貨物船)が港に接岸する場面を想像してください。大きな船だけでは正確に岸に寄せることは難しく、小さなタグボートがサポートに入ることで、安全かつ正確な接岸が可能となります。
つまり、大きなアウターマッスルが力強く腕を動かし、小さなインナーマッスルがその動きを細かく調整することで、肩関節は怪我なくスムーズに機能しているのです。
肩関節は、上腕骨と肩甲骨の接合部で成り立っています。通常、腕を上げ下げするとき、上腕骨の中心は肩甲骨の受け皿と完全に一致したまま動いていきます。この位置関係がズレないのは、腱板が常に働いて骨の動きを微調整しているからです。
つまり、腱板は腕を上げるための主動力ではなく、骨の位置関係を保ち、肩関節の安定性を確保する「縁の下の力持ち」なのです。

ここで大切なのは、インナーマッスルの筋トレの目的を誤解しないことです。
多くのスポーツ選手やトレーニーが「腱板に筋肉をつける」と考えていますが、それは誤りです。腱板は大きく肥大させる筋肉ではなく、アウターマッスルとの連携をスムーズにすることが目的なのです。
したがって、インナーマッスルのトレーニングは「筋肉量を増やす」ためではなく、「神経と筋肉の連携を整え、スムーズな動作を学習する」ことが本質的な狙いになります。
人間の動作は、筋肉単体ではなく神経を介した連携で成り立っています。たとえば膝を伸ばす際、太ももの前面の筋肉(大腿四頭筋)が働くと、後面の筋肉(ハムストリングス)は緩むように調整されています。これは神経反射による自然な仕組みです。
肩でも同じことが起こっています。アウターマッスルとインナーマッスルは神経を通じて連携し、互いの働きを微調整しながら滑らかな動作を実現しています。そのため、インナーマッスルのトレーニングでは、神経と筋肉の協調性を高めることが最大の目的となるのです。
ゴムチューブを用いた内旋・外旋運動は、腱板を意識した代表的なトレーニングです。特に、以下の筋肉を効果的に刺激できます。
一方で、腱板の中でも棘上筋は日常的な腕の上げ下げ動作で十分に使われるため、特別なトレーニングを必要としません。
ここで重要なのは、チューブトレーニングを「力強く何回も行う」ことではありません。むしろ、小さな負荷を何度も繰り返し、神経系にスムーズな動作を覚え込ませることが大切です。
最後に整理しておきましょう。
このように理解すれば、インナーマッスルトレーニングの位置づけが明確になり、誤った目的意識から解放されるでしょう。

肩のインナーマッスル=腱板は、肩関節の安定性と動作の精密さを支える重要な存在です。アウターマッスルの力強い動きに対し、腱板はタグボートのように繊細な調整を行い、両者の連携によってスムーズで安全な動作が可能になります。
したがって、インナーマッスルトレーニングは「筋肉をつけるため」ではなく、「神経と筋肉の連携を磨くため」に行うものです。この本質を理解したうえでトレーニングに取り組めば、より効率的で怪我のリスクを減らす効果的な結果を得られるでしょう。
本日の解説が、みなさんのトレーニングにおける正しい理解と実践につながれば幸いです。